ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

瀬尾まいこ「私たちの世代は」(文藝春秋)

瀬尾さん最新刊。この間の辻村さんに続いて、こちらもコロナ禍真っ只中の世の中

で生きる少女たちを描いた作品。こちらは、小学三年生の時にコロナが始まって、

がらりと人生が変わってしまった少女二人の視点から語られます。母子家庭で

育った冴は、母親が夜の飲食業の仕事をしていることで、心ない視線を向けられて

来た。小学生の頃はそれでも明るく過ごせていたが、中学に上がって、いじめを

受けるように。大好きな母親を心配させたくない冴は、家ではそこのことを隠して

生活している。しかし、そんな冴には、小学生の頃から心の支えになってくれる

存在がいた――。一方、コロナが始まった小学三年生の時、休校明けの登校日に

登校出来なかったことをきっかけに、不登校生活が始まった心晴。中学に上がって

不登校は続き、高校も大学も通信制で卒業した。しかし、あるきっかけから

外に出て就職しようと決意し、就職面接に挑むことに――。

冴視点でも、心晴視点でも、それぞれの抱える事情と心情が伝わって来て、感情

移入しながら読めました。共感できることばかりではありませんでしたが。

育った環境も性格も全く違う二人ですが、コロナに振り回されて人生が変わって

しまったことは共通しています。まぁ、冴に関しては、コロナがあってもなくても

もしかしたら母親の職業のことがあって、同じような人生だったかもしれませんが。

ただ、コロナがなければ、同級生の清塚君とはあんな風に出会って仲良くなっては

いないでしょうから、やっぱり人生を変えたのは間違いないと思う。彼との出会いが、

その後の彼女の人生を全く違うものにした筈だから。

心晴が不登校になってしまったきっかけを作った両親の言動には腹が立ちました。

あれだけ心晴が登校日に登校したいと繰り返し訴えたのだから、あんなに頑なに

拒絶しなくても。確かに、あのコロナ真っ只中の時期に、子供が集まる場に登校

させることはリスクを伴うことも理解できるのだけど。でも、あんない必死に子供

が行きたいって言っているのだから、一日くらい許してあげても良かったのでは、

と思ってしまった。その一日がその後の彼女の人生を大きく変えてしまった。

父親も母親も、彼女の事情を知らなかったとはいえ、罪なことをしたものです。

でも、不登校でもちゃんと勉強して、高校も大学も卒業したのだから、大したもの

です。今、世の中で不登校児がとても増えているそうですが、心晴のようなケース

は、現在不登校になっている子供たちにも勇気を与えるんじゃないかなぁ。コロナ禍

を通して、学校や会社に行かなくても、オンラインで授業や仕事ができることが

わかって来たところでもあるし。もちろん、オンラインでは限界なこともたくさん

あると思うけれどね。

いじめられても、不登校になっても、冴も心晴も社会人として一歩を踏み出すことが

出来た。それはやっぱり、彼女たちにはそれぞれに支えてくれる人たちがいたから

だと思う。冴と蒼葉の関係には、最後までドキドキさせられました。明らかに

お互い意識してるのに、その気持ちに気づかないふりをしているところがじれった

かったな。ラストで明らかになる二人のその後にはニヤニヤしちゃいました(笑)。

冴と心晴の関係も良かったですね。全く違う性格だけど、どこか似ているところも

あって、気が合うんでしょうね。二人は、一生の友達になれるんじゃないかな。

冴の母親に関しては、冴にあっさりした料理をリクエストした時点で、先が読めて

しまいました。冴が後々困らないよう、あらゆるところに根回ししている周到さ

に脱帽。母の愛を感じました。明るくて優しくて、本当にいいお母さんですよね。

手作りマスクを作って、クラス全員に配ったり、いない生徒の家に押しかけて行って

渡そうとするところは、ちょっと押し付けがましくて面倒な印象もあったのです

けど。彼女の押し付けがましい行動には、ちゃんと意味があったことが後にわかる

ので溜飲が下がりました。

ただ、母親のくだり、『そして、バトンは渡された』を思い出して、ちょっと

二番煎じに感じてしまいましたが。いいエピソードではあるんですけどね。

冴も心晴もコロナによっていろんなことがままならなくなったり、人生を変えられて

しまったりしたけど、コロナがあったからこそ得たものもあったと思う。失われた

ものを嘆くばかりではなく、それを踏まえて一歩踏み出すことが大事なのかな、

と思わせられる作品でした。