ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

久青玩具堂「まるで名探偵のような 雑居ビルの事件ノート」(東京創元社)

久しぶりのミステリ・フロンティア作品。青春ミステリで連作短編集っぽかった

ので、借りてみました。しかし、ずっと刊行予定作の欄に書かれている梓崎優

さんの作品は、一体いつになったら刊行されるのだろう・・・。次かな次かな、と

いつも心待ちにしているのだけれど。早く読みたいなぁ。

高校生の小南通は、雨の降る日、午後の授業をさぼって、雑居ビルの1階にある

茶店に入った。初めて一人で喫茶店に入った小南は少し緊張していたが、マスター

は優しく迎え入れてくれた。一番安い「定番」のブレンドコーヒーを頼み、文庫本

を取り出して自分の「文学的」行為に浸っていたところ、無愛想な自分と同じ年

くらいの女の子がコーヒーを運んで来た。冷たい視線を浴びせられ面食らったものの、

運ばれて来たコーヒーの美味しさに陶然となった。そんな中で、常連らしき男の客

がやって来て、マスターや先に来ていた女性客と話し始めた。なんとはなしに話を

聞いていると、男は探偵で、昨夜、自分の名刺を巡って、ある会社から苦情が

来たのだと言う。男の名前が書かれた名刺を出して、その会社の社員のことを

聞き込みに来た人物がいるらしい。探偵は全く身に覚えがないが、名刺は本物

だという。偽探偵が使った名刺は、ひと月前に新調したばかりで、まだ数える

くらいしか配っていない。探偵は、疑わしい人物は三人いるという――小南は、

退屈な日常から逸脱したこの状況にワクワクし、密かに謎解きに参戦しようと

思い立つのだが――。

雑居ビルに入っているテナントの店主が、各作品ごとに不可解な出来事に遭い、

その場に居合わせた高校生の小南と、店主の娘芹が解き明かす、という連作短編

形式。

うーん、爽やかな青春ミステリ、とはちょっと程遠い感じだったなぁ。日常の謎

なので、殺人事件などは出て来ないのですが。主人公の小南のキャラも、探偵役

の芹のキャラも、いまいち好感が持てるとはいい難い。特に、小南の性格は

掴みどころがなくて、一体何がしたいのかいまいちよくわからなかった。そもそも

一話目で午後の授業をサボって喫茶店に来たところからして、一体何が目的だった

のかって感じだったし。なぜ午後から学校をさぼったのか、どういう心境だった

のか、その辺りの感情の機微みたいなものを、もう少し細やかに描いてほしかったな。

せめて、最初くらいは。

文章も、ところどころに引っかかる表現があって、素直に読めない箇所が何度も

ありました。ここ、その表現でいいのかな?文法的に間違ってない?こんな言葉

使われるのかな?とか度々思うことがあって。私が無知なだけで、その書き方で

合ってるかもしれないのですが。何かすんなり読めないところがあって。決して

読みにくい文章って訳ではないと思うのですが、なぜか読みにくさを感じました。

作者さんがラノベ出身と知って、なんとなく納得したところもあるのですけど

ね・・・。文章に独特のクセがあって、それが若干鼻につくというかね。文章が

合わないと、なかなか作品自体も好意的にみられなくなっちゃうのよね、私。

ただ、二話目の日記から芹が真実を見抜く過程などは良く出来ていて感心させられ

ましたし、三話目の古書から読み取る密室の謎の真相なども、ミステリの禁じ手

を思いっきり使ってるとはいえ、それなりになるほど、と思わせられるものが

ありました。四話目の友人が手料理のもてなしを断る理由は、なんとなく想像が

ついてしまいましたけれど。ミステリの出来は、ちょっとばらつきがあったかな。

各作品の謎解き後に、依頼人とか関係者視点でその後が語られるエピローグ的な

ものがついているのだけど、これがどうにも蛇足に感じられて仕方なかった。

知りたいことが書かれていて良かった場合もあるのだけど・・・。別にこの

部分いらないよね、と思えるのがほとんどだったような。

頑なに心を閉ざす芹と、その心の扉をこじ開けたい小南、二人の関係は、もう少し

踏み込んで書いてほしかったかも。まぁ、少しづつ距離が縮まっているようには

思えるので、続編があるとしたら、もう少し関係性は変わって行くのかも。

ただ、続きが出たとしても、読むかは微妙かなぁ。キャラに好感持てる人物が

あまりいなくて、キャラ読み出来なかったのが痛かったかな。