ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

歌田年「紙鑑定士の事件ファイル 紙とクイズと密室と」(宝島社)

シリーズ第三弾。創刊二周年を記念して、紙業界誌『月刊KAMI-ZINE』に掲載された

懸賞つきクイズコーナー『紙人32面相の紙ってる!推理クイズ』が、紙業界内で

話題になっていた。紙人32面相なるオリジナルキャラクターが読者に推理クイズを

出題し、正解者には10万円の賞金が贈られるというものだ。当然ながら、紙業界

人である紙鑑定士の渡部も意気揚々と参加するべく、問題の答えに頭を悩ませていた。

そんな中、仕事で旧知のプロモデラー土生井の家を訪れると、塾の教室を模した

ジオラマを見せられた。土生井曰く、これは塾で起きたカンニング事件の現場を

模したものだというのだが――。

 

若干、トリックのネタバレ気味です。未読の方はご注意を。

 

 

 

塾の生徒がやったカンニングの方法に関しては、盲点をつかれたところもあって

面白味はあったけど、ツッコミ所も多く、素直に感心するまでには至らなかったかな。

こういう紙は実際に存在するんだろうけど、本当に後に何も残らなかったりするの

かな?あと、一番ツッコミたくなったのは、回した紙を隠した方法。本当にこんなの

毎回成功するものなのかな。万が一、コントロールが狂った場合、リスクが大き

すぎないか?紙自体におもりをつける訳でもないだろうし(証拠が残ってしまう)。

紙だけだと軽くてコントロールするの難しくない?生徒たちがカンニングした理由

にはぐっと来るものはありましたけどね。

二話目は、東京近郊のいくつもの図書館や古書店で、本の間に挟まれたカミソリが

発見された事件の真相を渡部が推理する話。発見されたカミソリの歯は、小さな紙に

貼り付けられており、その紙には『さわるときけん けがするで カミ人30面相』

と書かれていた。犯人は、月刊KAMI-ZINEの推理クイズをまねているのだろうか――。

作中に出て来る窓の密室トリックは、かなりオーソドックスなものなので、あまり

意外性はなかったですね。犯人の動機は100%逆恨みですが、同情すべき部分が

ない訳でもない。でも、三ヶ月遅れ云々に関しては、「は?」って感じでしたけど。

紙ってるクイズの密室の理由には、なるほど~!って思いました。確かにとんち

だし、紙業界人ならではの理由でもある。うまいな、と思いました。

三話目は、月刊KAMI-ZINEの紙ってるクイズコーナーを担当した、デザイナーの

小牟田千果咲が登場。なぜ、彼女がこのクイズを作ったのか、その真意が明らかに。

千果咲の姉が自殺した現場にいた男の正体は、全然予想出来なかったです。確かに、

後から考えると怪しい登場の仕方だったような。犯行が明らかになった後の言動が

自分勝手過ぎて引きました。少し前に話題になった(最近もまた話題になったけど)

歌舞伎俳優思い出してしまった。こういう人間の頭の中ってどうなってるんだろ。

理解不能

今回も、全編に亘って、渡部の紙蘊蓄がすごい。紙の名称とか材質とか羅列されても

さっぱり理解できないんだけど、読んでいるとなぜかワクワクしちゃう。渡部が

当然のことのようにつらつらと述べるものだから、もしやこれって常識?って

勘違いしそうになります^^;いやいや、そんなの普通の人は知らない知識だから!

ってツッコミたくなりました(苦笑)。

三作の中では、一番紙鑑定士としての面目が保たれた作品じゃないでしょうか。

ただ、実際の事件のトリックよりも、紙ってるクイズの解答の方が面白かったかも。

アヴェンタドールの持ち主、真理子様のお見合い話にやきもきしましたが、結果

には渡部同様ほっとしました。渡部も、もう少し素直になるべきだと思うけどね。

今回も楽しく読めました。次はどんな紙蘊蓄が読めるかな。