ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

霧舎巧/「新本格もどき」/カッパノベルス刊

霧舎巧さんの「新本格もどき」。

記憶喪失の吉田さんを追ってカレーショップ「牧場」にやって来た看護師の私。マスターの
マッシュルームカレーを食べた吉田さんは、なぜか人格が変わって有名な推理小説の探偵に
なりきってしまう。殺人事件の容疑者にされてしまった吉田さんは、人格が変わったまま
事件の推理をするのだが――霧舎巧新本格のあの名作たちを「もどく」!


面白かった!新本格の名作を霧舎さんなりにとても上手に「もどいて」いると思いました。
元ネタを知らなくても十分楽しめると思いますが(現に読んでいない「13人目の看護師」
も非常に面白かった)、やっぱり細かく本歌のネタが散りばめられているので、知っている
方がより楽しめますね。私は先に挙げた「13人目~」以外は読んでいたので、にやりと
する部分がたくさんありました。ただ、本歌の方はほとんどが10年以上前に読んだ作品
ばかりなので、キャラクターは覚えていても、トリックの方はさっぱり忘れてしまって
いたので、あまり元ネタとの比較は出来なかったのですが^^;なので、霧舎さんの純粋な
オリジナルのような扱いで読めた分新鮮味もあり、かえって良かったのかな、とも思います。
どの作品も程よく練りこまれていて、かなり気を遣って書かれているな、と感じました。

吉田さんのなりきり探偵っぷりに阿吽の呼吸で合わせてしまうマスターのキャラがいい。
あやしげなマッシュルームカレーを作っていた理由はよくわかりませんでしたが^^;

それぞれの作品が微妙に繋がっていてラストへの伏線になっている辺りも好きですね(こういう
連作短編に弱い)。ただ、最後には吉田さんの本名が明かされると思っていただけに、それが
明かされなかったのは消化不良でしたが・・・あとがきのヒントだけじゃ全く思いつきません!
わかった方がいたら是非教えて頂きたいです・・・・○○○○って、どーいうこと!?
それぞれの短編にくっついてる「寸断されたあとがき」も面白かった。


各短編の元ネタと短評を。

「三、四角館の殺人」(綾辻行人十角館の殺人」)
こういうトリックはすごく好き。こんな馬鹿馬鹿しい建物あるかい!と思いつつ、これぞ
館もの、という感じがする。作中で出てくる三人の作家のモデルがメフィスト賞作家で統一
されてるあたりも、ニクイ演出という感じがしました(乾くるみ氷川透石崎幸二)。
エピローグのオチはくだらないけど、なるほど~と思いました。


「二、三の悲劇」(法月綸太郎「二の悲劇」)
これは完全にやられました。実は二宮が○であることはわかったので、犯人は絶対あの人
だろうと思い込んでいたので・・・完全に吉田さんと同じ轍を踏みました^^;;そんなに
簡単な訳ないよなーとは思っていましたが。まんまと罠にはまったのでした。


「人形は密室で推理する」(我孫子武丸「人形はこたつで推理する」)
これは何だかちょっと人間関係がわかりづらかった。犯人の動機もちょっと弱い気がする。
面永吉夫と鰐小路鰐夫に笑ってしまいました。人形の代わりに鍋つかみってところが
セコくて好きでした(笑)。


「長い、白い家の殺人」(歌野昌午「長い家の殺人」)
楽屋に十二支の名前がついているというのが面白い。しかし、こんな横長の劇場は使いにくい
んじゃないかな・・・。作中作の館のトリックの方が面白かったかも。


「雨降り山荘の殺人」(倉知淳「星降り山荘の殺人」)
本歌の「星降り~」のもどき、というよりは猫丸先輩シリーズのもどきの方が強いような。
あとがきで両方をあえて採用したように書かれていますが。作風も猫丸先輩より。誰しもが
オチで脱力するに違いない。可愛いコックさん。成程。好きだな、こういうくだらないの(笑)。


「13人目の看護師」(山口雅也「13人目の探偵士」)
先ほど述べたように、唯一元ネタを読んでいなかった作品。ただ、キッドピストルシリーズは
二作くらい読んでいるので、ラストのオチにはにやり。作中作のトリックは唸らされました。
作品としては一番完成度が高いと思いました。


「双頭の小悪魔」(有栖川有栖「双頭の悪魔」)
本歌はもちろん私の大好きな作品。これを最後にもって来てくれたことがまず嬉しかった。
吉田さんが何故いつものように探偵になりきる時に、大阪弁を使わないのか不思議に思った
のですが、あとがきで理由がわかりました。できればなりきって欲しかったなぁ。名園が
なりきった吉田さんを始めにエガミでなくて○○○と呼んだということは、吉田さんの正体は
もしや・・・。



元ネタを知っていてもそうでなくても楽しめるミステリの短編集です。本歌も面白い作品
ばかりなので、是非併せて読んで頂きたいですね。


ちなみに、うちの図書館は微妙に親切(不親切!?)で、帯の「作者への尋問」の部分は切り取って
中表紙に貼り付けておいてくれましたが、肝心の「もどかれた」作家の方々からのメッセージの
部分がありませんでした・・・。まぁ、こんなこともあろうかと本屋でチェックしておきました
けれどね、冴さん^^