ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

乾ルカ「葬式同窓会」(中央公論新社)

久しぶりの乾さん。刊行インターバルが短くて、最近は全然追えてなかったの

ですが、気になるタイトルだったのでなんとなく食指が動いて借りてみました。

確か、ブランチでも紹介されていたような。だから引っかかったのかも(違う

作品だったかもですが^^;)。

ただ、読み終えて本編の後に挿入されている既刊本の広告ページで、この作品が

『白麗高校三部作』の最終作だということを知りまして。最終作から読むという

愚行を犯していたことに気づきました・・・。ただ、同じ高校が出て来るって

だけで、主人公たちは別々みたいですし、内容的にも繋がってなさそうなので、

特に問題はないのかな、と思うのですが(希望的観測)。ただし、本書を読んで

前の二作を遡って読むかはちょっと迷うところ。なぜって、本書の内容がねぇ。

もう、イヤミス全開って感じの内容だったから。ツッコミ所も満載だったし。

乾さんって、こんな作風だったっけ?と首を傾げながら読んでました。面白く

なかった訳ではないのですが。リーダビリティはありましたし。でも、うーーん

・・・内容的に、イライラムカムカするシーンが多くて、読んでいて辟易。特に、

ラノベ小説家志望の華が出て来るシーンは、華の性格がゲス過ぎて、その醜悪な

内面描写にドン引き。でも、こういう、他人より自分が優れていると思い込んで、

自分が評価されないのは周りのせい、みたいに自分を過信するタイプの子って、

クラスに一人はいるよなぁ、という感じで、リアリティはありましたけどね。

物語の発端は、高校卒業から7年、久しぶりに白麗高校3年6組のクラスメート

たちが集まった。それは、当時担任だった水野の葬儀の場だった。葬儀の後で

プチ同窓会とばかりに居酒屋に流れたメンバーたちは、思わぬ再会に当時の昔話

に花を咲かせた。特に話題に上ったのは、普段は陽気で気さくな水野が、なぜか

一人の生徒を標的にして、いじめまがいの授業をした日のことについてだった。

なぜあの日に限って水野は一人の生徒に対してあんな態度を取ったのか。そして、

その生徒は、その授業の途中で退席し、その後二度と学校に戻って来なかった。

あの生徒は今どうしているのか――。小説家志望の華は、特にこの話題について

食いついた。この不可思議な出来事を題材に、次の小説を書いたら絶対すごいものが

書けると思ったからだった。華は、当時覚えていることがあったら教えて欲しいと

クラスメートたちに願い出るのだったが。

学生時代のモヤモヤが久しぶりに会ったことで再燃する、というのはいかにも

ありそうです。特に、いじめの問題は根が深いですよね。いじめた方は忘れても、

いじめられた方は絶対に一生忘れられない。いじめのことを糾弾された華が、

逆ギレするシーンには腹が立って仕方なかったです。逆にいじめられた側の優菜

の弱い態度にもモヤモヤしたところはったのですけどね。でも、面と向かって問い

質せない弱い気持ちも理解出来る。言いたいことが言えないジレンマは、私も

身に覚えがあるから。口の達者な相手だと、どんなに自分の方の言い分が正しくて

も、絶対言い負かされてしまうから。結局何を言っても無駄、みたいな諦めの

境地になっちゃうんだよね。そんな自分がまた嫌になったりして。負のループに

陥ると。7年経っても華に対してわだかまりがあるのに、表面的には平気なふりして

接する優菜にイライラしたけど、それは自分に似てるところがあるせいだったかも。

でも、終盤、華にちゃんと対峙して言いたいことをぶちまけられたところは

良かった。その結果はともかく。華という人物は、どこまでも最低な人間だな、

と思わされました。こういう人間ほんと嫌い。優しい彼氏がいるのに、その彼氏に

対する態度も酷かったし。ただ、華だったら、彼氏もトロフィータイプを選ぶの

かと思っていたから、彼の人物像は意外だったけど。まぁ、自分をちやほやして、

甘やかしてくれるからってのが大きいのかもしれないけど。本当に彼に対して

愛情があるのかは疑問だったなぁ。

普段明るく気さくな教師だった水野がなぜ、いじめまがいの授業をしたのか、その

理由には拍子抜け。そんな個人的な理由で、一人の生徒を不登校においやったとは。

なぜ、その生徒だったのか、そこの理由が曖昧なまま終わってしまったので、

もやもや。特殊事情を抱えた子だったからなのか、もともとよく思っていなかった

からなのか。それとも、たまたまその子を当てたから、標的になっただけだった

のか。その辺り、もうちょっと深く切り込んで書いてほしかったな。

あと、一番首を傾げたのは、長年続いていた戦争が、オリンピックの金メダリスト

の発言がきっかけで停戦したって部分。いくら何でも、そんなのありえないでしょう

・・・。その子のルーツが、片方の国にあるからって。基本的には日本のデュオ

な訳だし。そこはちょっと、リアリティなさすぎて違和感ばかりを覚えてしまい

ました。これが本当に実現したとしたら、本当にノーベル平和賞ものですけどね。

そんな世の中だったら、どんなにかいいだろうと思うけれども。実際には、こんな

発言したら多分、消されてしまうだけなのでは・・・(怖)。

違和感といえば、一木に関しても。イケメンなのに誰とも付き合ってないから

といって、なんでみんなゲイだと決めつけるのか。本人が何も言っていないのに。

そういう素振りがあるならまだしも。母親までもがそういう思考になるところが

ちょっと理解出来なかったです。

山登りで出会った男二人の正体に関しては、なんとなく途中で気がついたので、

それほど驚きはなかったですね。

ラスト、噴水のメッセージをあの人は見つけられるだろうか。見つけたら、救われ

るのだろうか。やられた過去は消せないけれど。メッセージが届くといいなと

思いました。