ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

井上真偽「アリアドネの声」(幻冬舎)

井上さん最新長編ミステリー。今までの作品とは大分雰囲気が違うので、最初

ちょっととっつきにくいのかな?と思いながら読み始めたのだけど、読み進めて

行くにつれてどんどん引き込まれて行って、後半は先が気になって一気読み。

面白かった!

最新のIT技術を駆使して実験的に作られた地下都市『WANOKUNI』で大地震が起き、

一人の人物が地下に閉じ込められた。ドローンビジネスを手掛けるベンチャー企業

で働く主人公の高木ハルオは、最新式の災害救助用ドローンの操縦技術を見込まれ、

消防と協力して救助に駆り出されることに。地下水の水位上昇までおよそ6時間。

限られた時間の中で、ハルオは最新式ドローンを駆使して救助者の捜索に乗り出した。

しかし、取り残された救助者は「見えない、聞こえない、話せない」という三つ

の障害を抱える町の有名人だった。刻一刻とタイムリミットが迫る中、いくつもの

障壁がハルオたちに襲いかかる。ハルオは救助者を無事生還させることが出来る

のか――。

閉ざされた特殊な環境下で取り残されたのは、三重苦の障害を抱えた女性。これだけ

でも、救助が大変だとわかる。緊迫した状況でドローンを使って救助者を捜して

行く中、一難去ってまた一難、みたいな状況がずっと続いて行くので、ハラハラ

しながら読みました。その上、ハルオたちが救助者をなんとか救おうと四苦八苦

する中、当の被災者に関して、ある疑惑が持ち上がる。彼女の障害は、本当のもの

なのか――?

暗闇の中でいくつもの障害の中、ドローンが突き進んで行く様子は、何かダンジョン

系のゲームに入り込んだような気持ちになりました。主人公のハルオ自身もある

トラウマを抱えた状況で、身体的にも精神的にも疲弊していく・・・。映画一本

観たようなドラマ性がありましたね。映像化されそう。

高校の同級生の韮沢さんの言動には最初引いたしイラッとさせられたけど、彼女の

当時の身体的状況や心理状況を考えると、仕方がないのかもしれない、とは思い

ました。ただ、あれだけハルオに暴言吐いてたのに、身障者の妹がいなくなったら

掌返しでハルオを頼ろうとするところにはやっぱり少し嫌悪感を覚えましたが。

ハルオが、この難しいミッションを通して、少しづつ自らの過去と向き合えるように

なるところは良かったです。それには、韮沢さんの存在も大きかったと認めざるを

得ないのですけれど。

途中でいくつも出て来た救助者の不審な動き。それについては、完全にミスリード

されていました。ラストで明らかになる、ある事実は衝撃的でした。いくつもの

伏線が、きれいにひとつに集約され、救助者がやろうとしていたことに打ちのめされ

ました。胡散臭いとしか思ってなくてごめん・・・。

あれだけたくさんの人がこの地下都市にいた筈で、そんな中で大地震が起きて、

逃げ遅れたのが障害者一人だけってところにはちょっと疑問を覚えたりもしたの

ですが、ツッコミたいところはそこくらいだったかな。

サスペンス要素やミステリ要素だけではなく、人間ドラマの部分も読ませる要素が

ありましたし。エンタメとしては素晴らしい出来じゃないでしょうか。

ドローン技術の可能性も感じさせられましたし。これからは、こういう最新式の

ドローン技術が災害で大いに役立つ時代になるんでしょうね。もちろん、今だって

十分役に立ってはいるんでしょうけど。技術はどんどん進歩して行くんじゃないかな。

奥付みたら、6月に初版が発行されてから、9月の時点ですでに6刷まで重版が

かかっててびっくり。そんなに話題になってる作品だったのか。知らなかった^^;

でも読んでみて納得。最後まで読んで、タイトルの意味も腑に落ちました。

今までの作品とはちょっと毛色の違う作品だったけど、面白かったです。