ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

湊かなえ「ドキュメント」(角川書店)

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湊さん最新刊。高校の放送部を題材にした青春小説『ブロードキャスト』の続編。

地元のマラソン大会に参加した部員の一人が、完走すると引けるくじでドローンを

引き当てた。新たな撮影媒体を獲得した放送部は、次の全国高校放送コンテストに

向けて、ドキュメント部門の題材について意見を出し合った。話し合いの結果、

陸上部に焦点を当てることに。元陸上部の圭佑は、友人の良太の取材を任され、

張り切っていた。しかし、ドローンで陸上部の部室を空撮した映像の中に、良太が

火のついた煙草を持って出て来る姿が写っているのが発見されてしまう。圭佑は、

良太は誰かにはめられたに違いないと考えるのだが――。

放送部という、普段あまり意識しない部活を掘り下げるこのシリーズですが、

第二弾となる本書は、前作よりも少しブラックよりの内容になり、爽やか度は

下がった感じがします。まぁ、湊さんの作風を考えると、こちらの方が本来って

感じはするのですが。友人の良太が何者かに嵌められたと知った圭佑は、友人の

無実の為に奔走します。確かに良太が嵌められたのは間違いなかったのですが、

嵌められたかどうかわからない段階でも、良太の肩ばかり持つ圭佑には、少し

冷静さと公平さが欠けているように感じられました。親友だから無実を信じる

気持ちは理解出来るのですが・・・。良太が火のついた煙草を持って部室から

出て来た映像だけでは、彼がシロかクロかなんてわからない訳で。感情論だけで

動こうとする圭佑には少し引いてしまった。親友だから、彼はそんな奴じゃないと

知っていると訴えたところで、無実かどうかの証明にはならないのですから。

端から誰かを悪者にした圭佑の考え方にはあまり共感出来なかったな。まぁ、

結果として圭佑は正しかった訳なのですけどもね。良太を陥れようとした人物は

意外でした。あまりにも身勝手な動機に、腹が立ちましたけど。でも、その動機

を知った圭佑の怒りはそれどころじゃなかった。陸上をやっていた経験があるから

こその怒りと、親友を陥れたことに対する怒りとが相まって。圭佑の怒りは尤も

だと思いましたが、部の周りの人との温度差が少し可哀想だった。まぁ、あそこまで

激情にかられた言葉を投げつけられたら、周りは引いてしまっても仕方がないのかも。

でも、圭佑の激情の理解者が一人くらいいてあげてほしかったとも思う。あんな

卑怯な方法で他人を陥れようとした人物がいたのは確かなのですから。せめて

同級生二人くらいはフォローしてあげてほしかったなぁ。まぁ、最終的には、

わだかまりが解けてよかったですが。

それにしても、地域のマラソン大会でそんなに豪華な商品が出るってあり得るので

しょうか。完走すればくじが引けて、豪華賞品たくさんで、ハズレくじなしとか。

放送部がドローンを引いたのもちょっとご都合主義に感じちゃったな。確かに、

実際こういう大会があったら地域の人は盛り上がるだろうなぁとは思いますけどね。

終章では、やっぱり今の時代が反映される展開になりました。直接的にコロナという

パワーワードは出て来ませんが。今、世の中に彼らのような思いをしている生徒

たちはいくらでもいると思うけれど。学生の一年間って本当に貴重だと思う。

いつか、彼らの思いが報われる日が来て欲しいな、と思います。

面白く読みましたけど、前回ほどの爽やかさが感じられなかったのは残念。この

シリーズは無理にミステリ色を入れなくてもいい気がするけどね。それを無理に

嵌め込もうとしたが故に、せっかくの爽やかさが損なわれてしまった気がして。

終章をああいう形にしてしまったことで、コロナが収まらない限り、次の続編は

難しいのかも。