米澤さん最新作。米澤氏初の警察ミステリーじゃないでしょうか?一作目は
アンソロジーで既読でしたが、こうしてシリーズ化されて一冊にまとまるとは
思わなかったです。
青春ミステリーで名を馳せた方とは思えない、なかなかに硬質な警察ミステリー。
そもそも、主要登場人物の葛警部のキャラ造形がかなり渋い。独自の視点で事件の
捜査を進める為、上司からも後輩からもあまりよくは思われていないものの、抜群
の考察力で事件を解決に導くアウトロー的な刑事。アンソロジーで読んだ時は、
そんなに個性的だとは思ってなかったのですけどね。二作目三作目と読み進めて
行くうちに、なかなか味のある刑事さんだなーという印象になっていきました。
まぁ、こういう性格だと、周りからは疎まれるだろうな~とは思いますけどね^^;
ちょっとしたきっかけで事件の真相を見抜く力はお見事という感じ。ミステリの
完成度はさすがでしたね。
では、各作品の感想を。
『崖の下』
群馬県のスキー場で男女四人が遭難した。うち男二人が先に発見されたが、その
うちの一人の男は、頸動脈をなんらかの尖った凶器で刺されて殺されていた。しかし、
現場に凶器は見つからず、遺体が見つかった場所は崖の下という特殊な状況だった。
一緒にいた仲間の男が最も疑わしいが、状況から凶器を処分することは不可能で
あると見做された。凶器は一体何で、どこへ行ったのか――?
これは読んだ時かなり衝撃を受けた作品だったので、凶器についてはばっちり
覚えていました。そんなバカな、と思いましたけどね。改めて読んでも、なんて
おぞましい凶器で犯行に及んだんだ!ってぞっとします。執念ってやつですかね
・・・。
『ねむけ』
群馬県内で一人暮らしの老女が強盗に入られ、頭部を殴打されて重症を負い、
病院に運ばれた。
警察は容疑濃厚として三人の容疑者を特定した。その中で最も疑わしいのが、
若い頃からひったくりを繰り返し何度も警察の世話になっている田熊だった。
警察が田熊の監視を始めたところ、田熊が交差点で車同士がぶつかる事故を
起こしたとの一報が入った。現場の状況を調べれば調べるほど、田熊の信号無視
が原因であることが証明されていくが、葛警部は目撃者の数が多すぎることに
違和感を覚え始め――。
これだけ目撃者が同じ証言をしていたら、普通はそのままその証言を信じてしまう
ところでしょうけど・・・ここですべてをひっくり返すとは。葛警部の慧眼には
恐れ入りました。普段から悪いことばかりを繰り返しているから、肝心な時に
信じてもらえないんでしょうね・・・。目撃者の同調心理の部分にはなるほど、
と思わされましたね。でも嘘はダメだよね。
『命の恩』
群馬県榛名山麓の<きすげ回廊>で人間の右上腕部が発見された。その後警察が
山狩りをすると、バラバラにされた人体の一部が次々と発見され、死体遺棄事件
と断定された。なぜ、死体は切り刻まれ、目立つ遊歩道に上腕部は捨てられた
のか――?
見つからなかったパーツから、真相を見抜くくだりはさすがだと思いました。しかし、
いくら恩があっても、ここまで出来るものですかね。しかも、親子二代にわたって
恩を忘れるなって。義理堅いにもほどがあるでしょ・・・。
『可燃物』
群馬県太田市の住宅街で連続放火事件が発生した。燃えたものは、いずれもゴミ
集積所の可燃物だった。警察が捜査に乗り出すが、なぜかある日を境に放火が
止まってしまった。犯人はなぜ燃えにくい可燃物ばかりを燃やしたのか。そして、
なぜ犯行は止まったのか――?
犯人の動機はまったくもって身勝手極まりないですね。こんな理由で放火する
人間がいるとは(絶句)。風がない日を選んでいたかもしれないけど、突然
強い風が吹く可能性だってある訳で。大火事に繋がらないとも限らないのに。
ほんとに、許しがたい犯行です。基本、小心者過ぎたんでしょうけどね。
『本物か』
群馬県内のファミリーレストラン<メイルシュトロム>内で、立てこもり事件が
発生した。警察が現場に急行したが、犯人は拳銃を所持しているおそれがある
ことがわかり、膠着状態が続いた。しかし、葛警部は何かがおかしいと気付き
始めるのだが――。
最初思っていた立てこもりの状況と、真実は全く違っていてびっくりしました。
人質と犯人の鮮やかな反転に目を見張りましたね。この状況を見抜いた葛警部は
やはり切れ者だなぁとしみじみ思わされました。
巻き込まれた少年が一番可哀想だったけど、ラスト一行でその後の様子がわかって
ほっとしました。アレルギー持ちにとっては、アレルギー食品の取り扱いが杜撰な
お店には行きたくないですよね。親の怒りも当然のことでしょう。