ラストの反転が話題になっている(らしい)岡崎さんの長編ミステリー。ブランチ
でも取り上げられていたので、読むのを楽しみにしていました。表紙までもが
伏線らしいと聞いていたので、この表紙にどういう意味があるのかな~と考え
ながら読みました。右目が隠されているところ?四つに割れているところ?
答えは最後まで読むと明らかになります。
ベストセラー作家だった叔母の遺稿が見つかった。姪である著作権継承者の私の
元にやって来た生前の叔母の担当編集者は、『この遺稿には削除されたエピソードが
ある』と言う。私は一度読んだ叔母の遺稿(『鏡の国』)をもう一度読み返し、
編集者の言う『削除されたエピソード』とは何なのか検証し始めるのだが――。
作品の大部分が『鏡の国』という、主人公の亡くなった叔母の遺作で占められて
います。この遺作は、一部登場人物の名前を変えてあるくらいで、他はほぼ叔母の
経験したことを元に書かれていると言う。この作品には、叔母のどんな謎が隠されて
いるのか。作中には、美しい顔をしているにも関わらず、自分の顔を不細工だと
思い込んでしまう身体醜形障害を抱える響、幼い頃に響が原因で顔にやけどを
負ってしまった郷音、二人の幼馴染で人の顔を認識できない障害を抱える伊織、
老け顔を気にする響の同僚の久我原、四人の人物がメインに出て来ます。それぞれに
重いものを抱えた四人は、何かに導かれるように出会い、親しくなって行きます。
そこで、思いがけず小学生の時の郷音のやけどの事件には意外な事実が隠されて
いたことが判明する。郷音は、自分の人生をめちゃくちゃにしたその出来事の
真相を明らかにしたいと思い、響たちに協力して欲しいと頼みます。そこから
四人は過去の事件について調べ始め、少しづつ真相が見えて行く――。
作中作に仕掛けられたいくつもの違和感。終盤に、叔母の担当編集者によって
その謎が明かされて行くのですが、私には全く見抜けませんでした・・・^^;;
言われてみれば、ってことばかりでしたね。伏線の貼り方が巧妙なので、
なかなかこの真相を見破れる人は少ないんじゃないかなぁと思うけれども(負け
惜しみともいうw)。
久我原のことも、響と郷音のことも、全然気づけなかった。あほ。真相が明らかに
なってみて、そういうことだったのかー!と思わされました。
ただ、肝心の削られたエピソードに関しては、ちょっと拍子抜けだったかも。もっと
ミステリ的な部分の重要な要素とかが書かれているのかな、と思ってたので。
この部分に関しては、読む人によってあった方がいいか悪いかの判定は分かれそう。
蛇足といえば蛇足な気がするけど、事実に即した物語という前提を考えると、
あった方がいいという考え方も間違ってない。読後感の問題もあるし。フィクション
の作品として考えるのであれば、このエピソードがあることで確かにちょっと
上手く行き過ぎてかえって興ざめって印象を受ける人もいるかも。でもまぁ、
事実は小説より奇なりと言いますからねぇ。
主人公はこのエピソードをどう扱うんでしょうかね。単行本と文庫で違う結末に
して出すって手もあるかも(先に削除した形で単行本を出して、数年後に文庫版で
実はこういうエピソードが隠されていました、みたいな形にするとかね)。
こんなに障害を抱えた人物が一気に集まるかってところは若干ツッコミたくなり
ましたが、ミステリとしてはよくできている作品だと思いました。
アイドル経験のせいで醜形障害に罹ってしまう響や、やけどの後を加工した美しい
顔で人気配信者として活動する郷音のキャラクターなど、見た目に拘るルッキスム
をテーマにした辺り、現代社会を反映させた作品とも云えるでしょうね。人の顔を
覚えられない伊織も、自分の老け顔を気にする久我原も、やっぱり顔に関する
人知れぬ悩みを抱えていますしね。男性だろうが女性だろうが、やっぱり人は
見た目を気にする生きものなんでしょうね。
クアドラプルミーニングという言葉は始めて聞いた気がするなぁ。トリプルまで
ならよくありますけどね。
巧妙に散りばめられた伏線が効いていて、なかなか読み応えのある力作だと
思いました。