ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

瀬尾まいこ「夜明けのすべて」(水鈴社)

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瀬尾さん最新作。社員6名の小さな会社、栗田金属で働く28歳の藤沢美沙は、

月に一度、PMS月経前症候群)の症状に悩まされていた。生理の前になると、

どうしてもイライラが抑え切れず、周りの人に当たってしまう。職場の人たち

にはある程度の理解は得られていたが、転職してきたばかりの山添はそのことを

知らず、ある日PMSの症状が出た美沙の標的になってしまう。山添が何度も炭酸

飲料のペットボトルの蓋を開け締めする音が、気に障って仕方がなかったのだ。

それに、山添は普段から遅刻が多く、仕事中にぼーっとして覇気もなくやる気も

なさそうな態度も気になっていた。しかし、そうした山添の態度には、ある事情

が隠されていた。そのことを知った美沙は、自分の症状そっちのけで、山添に

おせっかいを焼き始める――。

PMSパニック障害で苦しむ主人公二人が、お互いにおせっかいを焼きながら、

相手と自分の症状に向き合って行くお話。

PMSに関しては、女性ならではの症状なので、わからなくもないです。まぁ、美沙

ほど極端な症状が出ることはまずないですけど。ちょっとしたことでイライラする

気持ちは、女性に限らず誰にでもあるとも思うし。ただ、月に一度必ずこういう

状態になってしまうのは、やっぱり辛いだろうなぁ。もともと性格が穏やかなだけに、

その日だけ別人のようになってしまうというのは。カッとなって理不尽に誰かに

当たって、周りの空気を凍らせてしまう。症状が収まった後で思い返すと、後悔

と恥ずかしさで落ち込んでしまうとか。自分ではコントロールできない感情な

だけに、厄介ですよね。なんであんなことを言ってしまったんだろう、と穴が

あったら入りたい状態に陥るという。PMSじゃないけど、身に覚えはある感情

ではあるなぁ。何かにイライラしてる時って、ほんと自分でもどうしようもない

くらい何かに当たったりしちゃうんですよね。炭酸飲料の蓋の開け閉めくらいで

文句言われた山添君は気の毒になりましたけども。

パニック障害に関しては、患っている人も知っているし、芸能人でも突然かかる

人の話を聞いたりもするので、割と身近な病気(というと語弊があるのかな?)では

あるのかな、と思います。身近な人にはいないのだけど。ある日突然かかると

聞くので、自分だって全く無縁とも言い難いでしょうし。うつ病とかもそうだと

思うのですが、こういう精神的なものから来る病気は、なかなか他人に理解して

もらうのも難しいのだろうな、と思います。結局、一人で抱えて、向き合うしか

ない。孤独な戦いですね。でも、本書の主人公二人は、自分の症状に苦しみながらも、

相手のことがほっとけず、なぜかおせっかいを焼いてしまう。恋でも友情でもない

相手への感情。どちらかというと、同士とか戦友みたいな感じなのかなぁ。二人の

関係がすごく良かったな。最初はどっちもそんなに好感持てるって感じじゃなかった

のだけれど。なんだかんだで相手が弱っている時に手を差し伸べてあげてしまう

ところが、二人ともすごく似ていて。似た者同士って感じが良かった。終盤、

山添くんが仕事でもやる気出すところが良かったなー。会社のみんなが本当に

いい人ばっかりだから、この会社でぜひとも一旗揚げて欲しい。もともと仕事は

出来るのだから。心配性の社長を安心させてあげて欲しい。社長がほんとに終始

いい人過ぎて、泣けました。山添君や美沙の若い力で、この会社がもっと発展する

といいなぁ。

病気や障害を抱えていても、周りの理解があれば、人間は居場所を見つけて成長

して行けるんだ、と優しく教えてくれるような作品でした。弱い立場の人間に

寄り添う瀬尾さんの目線が温かいな、と思いました。