ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

鈴木るりか「星に願いを」(小学館)

田中さんシリーズ最新刊。二作の中編が入ってます。今回も良かったな~。って

いうか、今までの作品の中に散りばめられた伏線をこの一作で回収したって

感じ。二作目で出て来た花実ちゃんの実のおばあさんが、なぜあんなに突然

二人の前に現れたのか(表向きは金の無心だったけど)、その真実が明かされます。

 

 

以下、ネタバレ気味の記述があります。未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

いやー・・・おばあさん側の視点に立って、初めて彼女の本心がわかりました。

二作目読んだ時は、なんて憎たらしいババアなんだ!ってその言動にいちいち

憤っていて、それでも実の祖母だと思って優しくしてあげる花ちゃんはなんて

人間ができているのだろう、と感心するばかりだったのですけど・・・。花実

ちゃんは、ちゃんとおばあさんの本質をわかっていたのだろうなぁ。まぁ、

もちろん、花実ちゃんがお人好しってのも大きかったとは思いますけど。

おばあさんが花実ちゃんの母親に対して酷い仕打ちをしていた理由もわかりました。

だからといって、子供をひどい目に遭わせたこと自体は、決して受け入れられない

けれども。そうしたくてしていたのではないとわかっただけでも、おばあさんに

対する見方は全く変わりました。こんな事情があったとは。予想外に重い彼女の

人生に驚かされるばかりでした。もちろん、彼女が自分の夫にしたことは、

到底許せるものではないのだけど。取り返しのつかないことを言ってしまって、

取り返しの付かない事態を招いてしまった。一生消せない重い枷を背負って

生きて来たんだなぁ。たった一人で。娘を手放したことも、娘を守りたかったから

だったんですね・・・。でも、娘からしてみれば、こんな風に手放されたら、捨て

られたとしか思えない訳で。なんだか、悲しい真実だったな。何より、すべてが

明らかになるのが、当人がいなくなってからなんて。これが一番悲しい。

二人に会いに行った時、おばあさんが本当のことが言えていたら、何かが変わって

いたのだろうか。一人寂しく逝ってしまったことが悲しかった。

でも、その真実を知って、花実ちゃんが泣いてくれたことを知ったら、きっと

空の上で喜んでいるのじゃないかな。せめて、花実ちゃんにはすべてを打ち明けて

ほしかったな。そうしたら、彼女のことだから、自分のおばあちゃんと母親のために、

全力で二人を和解させようと奔走したのじゃないだろうか。

でも、さみしい人生だと思っていたおばあさんが、最後に吉澤さんという自分

より随分と若い友人と出会えてよかったと思う。自分の遺志を継いでくれるひとが

現れて。そうでなければ、娘と孫に何ひとつ残せないままだったと思う。

そして、今回も花実母娘のアパートのオーナーの息子・賢人が大活躍。半引きこもり

みたいなダメな奴ですが、心根は素直で、実は賢くてとても優しい良い子。今回も、

ラストの賢人の考察によって、おばあさんの過去が少し救われるものになったと

思う。賢人の考察通りであってくれればいいなぁと思わずにいられなかった。

作者のるりかさんは、20歳になられたのですね。ってか、まだ20歳!?

ピチピチの大学生なんですよね。お酒も飲めるようになったのですね。

その若さでこういう作品が書けちゃうんだから、すごいなぁ。やっぱり、才能の

塊だと思うな。最近少し執筆ペースが落ちて来たのが残念ではあるのだけど(

大学がお忙しいのかな)、ちゃんとコンスタントに作品が出ているし、作家としての

地位も確立して来た感じがありますね。今回の作品も素晴らしかったです。

まだまだ花ちゃん母娘の物語が読みたいので、学業の方もお忙しいとは思いますが、

両立して頑張って頂きたいですね。