ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

長岡弘樹「球形の囁き」(双葉社)

『傍聞き』の羽角母娘シリーズ最新作。娘の菜月視点、母親の啓子視点が交互に

描かれる連作短編集。一作ごとに菜月がどんどん成長して行って、最後には

母親にまで。ちょっと、ちょっと、一冊で時が進み過ぎじゃない?^^;もう

少しゆっくり菜月の人生を描いても良かったのでは・・・。中学・高校の彼女の

彼女の経験をもう少し読んでみたかったなぁ。

 

以下、ネタバレ気味感想になっております。

未読の方はご注意を。

 

 

 

 

 

 

『傍聞き』では小学生だった菜月ちゃん、一作目では高校二年生。二作目では

大学二年生、三作目では大学四年生、四作目では社会人になり二十六歳、五作目

では一気に時が進んで小学二年生の子供を持つ母親に。これ一作で、菜月の人生

の半分くらいを一気に見せられた気分です。

菜月がどんどん自分の夢を叶えて行くところは、読者としては嬉しかったですね。

ただ、記者となった後の菜月は、啓子に対して母親というよりも情報源として

見ているようなところもあって、少し親子関係に距離があるように感じて寂しかった

ですけれど。

それにしても、羽角母娘、啓子が警察官だとしたって、いくら何でも周りの人間

事件に巻き込まれ過ぎじゃないか?二人に関わる人間がことごとく事件に何らかの

関与をしているのはさすがにやりすぎのように感じてしまいました。倒叙ミステリ

と云っても差し支えないくらい、犯人の目処がつきやすい。今回は、伏線の貼り方

も結構あからさまなので、ああ、この描写は多分伏線だな、とすぐに見当がついて

しまった。いや、よくできているのは間違いないのですけどもね。伏線も、こういう

風に使われるのか!と目から鱗の思いがするものばかりでしたしね。巧いのは

間違いないのですけどね。

特に、四話の展開は、さすがに菜月が可哀想。彼女には男を見る目があったと

言うべきなのか、なかったと言うべきなのか。結果としてなかった方なんだろう

けど、動機が動機なだけに、うーむ、と考え込んでしまう案件ではありますね。

五話に出て来る菜月の娘・彩弓は、さすが菜月の娘にして啓子の孫って感じの子

という印象。顔はどちらにもあまり似てないようですけども。聡明な子供に

成長して行きそうです。

ミステリとしては、巧妙に張られた伏線が最後に効いて来て、やっぱり良く

できているな、と思えるものばかりでした。やりきれない結末のものが多かった

ですけどね。

次回作では、菜月の娘の彩弓ちゃんの成長が見れるのかな。三世代に亘る活躍

が読めるのかもしれません。