ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

アミの会編「おいしい旅 しあわせ編」(角川文庫)

アミの会の新作アンソロジー。『思い出編』『初めて編』に続く第三弾。旅行

大好き人間としては、旅関連のアンソロジーを読むのは毎回とっても楽しい。

各主人公たちと一緒にいろんな場所に旅をした気になれるんですよね。行った

ことがある場所だと、『あそこだ!わかる、わかる~!』って思うし。テンション

上がります。今回の場合だと、石垣島ヴェネツィアの話は懐かしかったな。

アミの会に寄稿される作家さんは実力派ばかりなので、ハズレがほとんどない

のがいいんですよね。どの作品もそれぞれに楽しめました。

 

では、各作品の感想を。

大崎梢『もしも神様に会えたなら』

祖母と一緒にお伊勢参りに行く予定だった小学五年生の元喜。しかし、当日に

なって祖母にトラブルが発生し、待ち合わせの名古屋に着くのが遅れてしまうという。

思い切ってひとりでお伊勢参りに行くことにした元喜だったが、伊勢市駅で迷子

になってしまう。すると、元喜と同い年くらいの地元の少年と出会い、一緒に行動

することに――。

元喜と泉実の関係にほっこりしました。地元に帰っても、二人の関係が続くと

いいな。伊勢参りは一度はしてみたいと思ってるんですよね~。パワースポットだし。

いつか行きたい!

 

新津きよみ『失われた甘い時を求めて』

両親が亡くなり、遺品を整理していると、松本城で撮ったと思われる家族三人の

写真が出て来た。自分の生まれが長野県松本市であることは知っていたものの、

住んでいたのは三歳の誕生日直前までということもあり、全く記憶にない。そこで、

未央は自分のルーツを探る為、松本に行ってみることに――。

両親の話に出て来た思い出の味を巡る旅。味覚が過去を思い出させるというプルースト

の小説については、個人的にとても思い入れがあるので、作中に出て来て嬉しかった

ですね。あの、マドレーヌを紅茶に浸して食べた時の描写の素晴らしさは、ちょっと

忘れられない体験です。原文を大学の選択授業で習ったんですよね。

翻訳ももちろん読んだのですが(翻訳の方は、なんとかかんとか7巻だか8巻辺り

までは読んだのですが、その後結局読み切れないまま今に至るという^^;)。

長ったらしくて何書いてるかよくわかんない小説ってイメージあると思うのですけど、

実はものすごく言葉に拘って書かれている小説だったりするんですよね。

とはいえ、本書の主人公は両親の思い出の味を食べてみても、特に何も起こらず

だった訳ですけどね。そりゃ、三歳前に食べてたとしても、覚えてなくても

仕方ないですよね。でも、一緒にシュークリーム食べてた少年とは、この後奇跡の

再会、となりそうな気配でしたね。ちょっと偶然が過ぎない?とは思いましたけど、

幸せになって欲しいですね。

 

柴田よしき『夕日と奥さんのお話』

結婚二十年を迎えた夫から、離婚を言い渡されたわたしは、思い切って石垣島

やって来た。離島ターミナルに向かうバスの中で、三十代後半と思える女性と

仲良くなった。彼女は、旅行雑誌のライターで、石垣島に詳しいようだった。

彼女と行動を共にしながら、わたしは夫との生活を思い返すことに――。

夫も妻も、少しばかり相手を慮る気持ちに欠けていたのかな、と思いましたね。

ちゃんと、お互いに思っていることを伝え合っていたら、こんな事態にはならな

かったのでは。結婚って、自分のことばかり考えていたら絶対成立しないですよね。

浜崎の奥さんの謎には驚きました。実物見てみたい(というか◯◯てみたい~)。

石垣島また行きたくなっちゃった。

 

篠田真由美『夢よりも甘く』

ヴェネツィアサンマルコ広場で、ウエストポーチから財布を盗まれ呆然とする

あたし。そもそも、この旅は最初からろくでもないこと続きだった。一緒に行こうと

約束していた友人と直前で喧嘩になり、ひとりで来ることになったし。出発前夜には

母と大喧嘩もした。日本から予約していたホテルは高い割に狭くて従業員の感じも

悪い。挙げ句の果てに、スリ。この旅では、大好きだったおばあちゃまのガラス

のバラが本物かどうか確かめに来たのに――。

ヴェネツィアは随分若い頃に一度だけ行ったことがあるのですが、その時の印象は

良かった覚えしかないんですよね。主人公のような嫌な思い出はひとつもないなぁ。

今はどんな風になっているのかなぁ。私が行った頃は、近い将来水位が上がって

街自体が水没するかもしれない、みたいに言われていて、だったら早く行って

おかなきゃ!って思った覚えがあるんですけどね。おなじみの骨董屋さんが今回も

ちらっと登場して嬉しかったです。カフェ・フローリアンのチョコラータが美味しそう

だった。

 

松村比呂美『旅の理由』

瑛太は、気がついたら漁港にいた。頭の後ろを触ると、べっとりと赤い血がついて

いた。なぜ自分がここにいるのか、この怪我は何なのか、全く思い出せない。一体、

自分に何が起きたのだろう。茫然自失になる瑛太の前に、六十代と思しき漁師の男性

が現れた。人の好さそうな男性に、ここはどこかと尋ねると、青森県三沢市だと

教えてくれた。自分はなぜこの町に来たのだろうか――。

てっきり、ミステリ的な仕掛けがあるのかと思いきや。どう考えても不穏な結末

しか予測できなかったので、ちょっと拍子抜けなところはありましたね。まぁ、

たしかに、そういう展開だったらこの『しあわせ編』には載らないでしょうけど。

ケイスケに関しても同じ。絶対何か裏があるだろうと思っていたら、予想外の

裏の顔があって、それはそれでびっくりだった(苦笑)。瑛太の頭の怪我に関しても。

まぁ、悪い結末じゃなくてよかったですけどね。

 

三上延『美味しいということは』

都内の大学に通う息子に会う為、篠崎卓郎は東京行きの新幹線に乗っていた。

特急電車に乗る際、卓郎はいつも車中で崎陽軒シウマイ弁当を食べた。十五歳

の卓郎が、祖母と一緒にシウマイ弁当を食べた時のように――。

卓郎が東京で祖母と食べた新宿アルタの裏のお店のロールキャベツは、アカシア

のものでしょうね。懐かしいなぁと思いました(超・超有名店)。その後に行った

表参道のスイーツ店は、ペルティエじゃないかな?大きくて白くてまんまるの

形のケーキは、とても有名。最後に行った銀座のビアホールはちょっとわからな

かったけど。

美味しいものを食べさせてくれる祖母の存在は羨ましかったです。子供の頃から

そんな美味しいものを食べてたら、舌が肥えちゃいそうですけどね^^;

 

近藤史恵『オーロラが見られなくても』

祖母と父の介護を終え、四十代に差し掛かったわたしは、結婚も仕事もしておらず、

この先の見通しもたたない状態だった。けれども、何もかも忘れて、遠くへ行きた

かった。そして、思い切って旅に出た。アイスランドへ、オーロラを見に。

わたしは、同じ氷河期ツアーのバスできれいな女性と知り合った。彼女もひとり旅で、

ミュージカル俳優をしているらしい。しかし、美しい彼女もまた、心に傷を負って

いた――。

オーロラ、実物観たらさぞかし感動するんだろうなぁ。でも、寒いのが苦手な私には、

アイスランドはハードル高すぎる^^;しかも、一週間いたとしても、観れる確率

は大分低いみたいだし。これって賭けですよねー。何度もチャレンジできるような

ところじゃないし。一生に一度行って、観られなかったら悲劇だなぁ。でも

それでも、観られる可能性に賭けてみんな行くんでしょうね。それはそれで、

ロマンなのかな。

祖母と父の介護で自分の時間を潰されて来たヒロインには、これからたくさん

良いことがあって欲しい。彼女は自分には何もないと悲観するけれど、ひとりで

アイスランドに行く勇気があるんだもの。きっとこれから何でもできると思うな。