ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

坂木司「楽園ジューシー」(KADOKAWA)

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随分前に出た沖縄の安ホテルを舞台にした『ホテルジューシー』の続編。まさか、

続編が出るとは思いませんでした。読んだの前過ぎて、前作の内容全然覚えて

なかったけど^^;覚えてるのは、沖縄のてーげーな雰囲気満載だったこと

くらいかな。

記事上げるにあたって、前作の記事を読み返してみて、なんとなく思い出した

のですけれど、前作で主人公だった女の子は名前しか出て来なかったです。あの

時から時間が流れて、新たに今回、東京の大学生の男の子、松田君(通称ザッくん)

が春休みの二ヶ月を利用して、ホテルジューシーにバイトに行くことになります。

ザッくんは、いろんな血が混じったミックスであるが故に、辛い少年時代を過ごして

来たコミュ障気味の青年。外見は外国人っぽいが、英語は全くしゃべれず、デブで

イケメンでもなく、髪型も天然パーマ。ついたあだ名が『残念なハーフ。残念な

パーマ、略してザンパ』。それでも、その暗黒の少年時代を共に過ごした仲間の

二人がいたおかげで、なんとか大学生になるまで生きて来れた。そんな二人と、いつか

沖縄に旅行に行くのがザッくんの夢だった。ある日、バイト先のお弁当屋が二ヶ月間

休業することになり、代わりのバイトを探すことに。そんな中、目に止まったのは

沖縄の安ホテルのバイト。陰キャな自分が行く所ではないと尻込みするザッくん

だったが、二人の仲間からの後押しもあり、なし崩し的にバイトに行くことが決まって

しまう。恐る恐る沖縄に飛んだザッくんを待ち受けるのは、いい加減なオーナー

代理や、一癖も二癖もあるお客たちだった――。

どこまでも内向きなザッくんの言動にはちょいちょいイラッとさせられたものの、

その生い立ちを考えると卑屈な性格になってしまうのも仕方がないのかな、と

思います。それに、与えられた仕事には真面目に取り組むし、他人を思いやる

気持ちは持っている子なのがわかるので、嫌いにはなれなかったです。いろんな

血が混じったミックスであるが故に、普通は持たなくてもいい偏見を持たれて

しまったり、逆に自分がミックスであるが故に、他人に対して偏見を持ってしまう

こともあったり。雑多な人種が行き来する沖縄だからこそ、気付けることもたくさん

あって、人生に諦観しているザッくんにとって、刺激的な沖縄での生活は、確かに

彼を成長させるものであったと思います。出会う人々もみんな個性的で、それだけに

繊細なザッくんには刺激が強すぎて、時には強い言葉で傷つけられることもあった

けれど。お客さんに対しては常に真摯に対応しようとしている姿勢は好感持てたな。

オーナー代理がいい加減過ぎるから(夜はともかく)、ザッくんみたいな真面目な

子がいるとちょうどいいのかもしれないな。前作の主人公もタイプは正反対でも

仕事はきちんとやる子だったし。バイトの採用に関しては見る目がある人なのかも。

いじめられた暗黒時代があって、コミュ障の気があるが故に、他人との接し方や

距離感がわからず、言いたいことが上手く言えずに相手を怒らせてしまう。そういう

場面が何度もあって、痛々しかった。基本的には良い子なんだけど、ザッくんの

言動を鑑みると、相手の言い分もわからなくもなくて。でも、米軍キャンプでの

ユージーンの一方的なザッくんの切り捨て方はひどいな、と思いました。自分から

誘ったくせに、あの態度はないと思う。ザッくんが、キャンプ自体がどういうものか

わかっていないことくらい、誘った時の反応でわからなかったのかな。まぁ、ザッくん

自身も曖昧な態度で行くって言っちゃったんだとは思うけどさ。帰りは一人で

帰れとばかりに放り出すのも何だかなぁって思うし。買い物は別々でも、帰りくらいは

乗せてってあげなよって言いたくなりました。東京の大学生が、沖縄で車のナビ

なんか出来るはずないだろうとも思うしね。そもそも一本道でナビって必要ない

じゃんか。ユージーンの方がよっぽど想像力が欠けてるんじゃないのかなって

思ったな。人種問題で嫌な思いしてきた同士、気が合うのかなって思って、二人の

交流を微笑ましく思っていただけに、二人のあの仲違いにはがっかりだった。

仲違いといえば、ザッくんが一番大事にしていた親友二人との気持ちのすれ違い

にも悲しくなりました。ところどころに出て来る二人のメールの返信内容から、

なんとなく、察するところはあったのだけど・・・できれば、私の勘違いであって

ほしかった。だって、ザッくんはずっと、二人のことだけが心の拠り所だったから。

でも、ザッくんの二人への沖縄体験のメールも、少し浮かれてる感じがあって、

忙しい生活を送る二人への配慮が足りない感じはしていたのだけれどね。三人で

過ごした大事な日々が、二人にとっては過去のものになってしまっているのが

悲しかった。でも、それぞれのライフステージが変われば、そうなって行くのも

必然なのかもしれないですよね。ザッくんだって、沖縄での二ヶ月間の経験で、

確実に成長を遂げているのですから。これからは、余生なんて言わずに、もっと

前を向いてやりたいことを見つけて欲しいな。そして、今度は旅行でまた

ホテルジューシーに泊まりに行ける日が来るといいと思う。

オーナー代理は、日中はだらしないけど、夜になるとなぜか人が変わったように

まともになる。その理由は、ザッくんの推理の通りなのかわからないけど、

本当に不思議な人だなぁと思います。夜のオーナー代理はちょっとかっこいい。

前作の記事の時、主人公の女の子といい感じになったりしないのかな、みたいな

感想が書かれていたのだけど、本書を読んで全くその気配がなかったことが

判明しました・・・^^;

料理担当の比嘉さんのお料理がどれもとっても美味しそうだった。石垣島

行った時のことを思い出して懐かしかった。沖縄料理すごく食べたくなりました。

そして、めっちゃ沖縄行きたくなりました。あー、南の島行きたーーーい!!