ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

須藤古都離「ゴリラ裁判の日」(講談社)

第64回メフィスト賞受賞作。久しぶりのメフィスト賞。最近はノベルスではなく

単行本で出ているんですかね?私の中では、メフィスト賞講談社ノベルスって

イメージなので、読んでいてメフィスト賞って感じが全然しなかったのですけども。

ブログ友達のゆきあやさんが絶賛していらして、気になったので借りてみました。

主人公がゴリラだと聞いて、一体どんな話なんだろう?と興味津々で読み始めました。

ふむふむ。確かに主人公は本当にメスのゴリラ。しかも、人間が手話を教えることで、

言葉が理解できるようになった、とても賢いゴリラのローズさん。手話を使うこと

が出来る為、AI搭載のグローブを通して、人間と会話することが出来ます。この

グローブと通した人間との会話を読んでいると、とてもローズがゴリラだとは思えなく

なって行きました。だって、人間よりもよっぽど思慮深いし、情も深かったりする

んだもの。人間と同じように感情の起伏もあるし、恋もするし。ローズの内面を、

そんな風に人間と何ら変わらないような描き方をすることで、終盤に登場する、

「ゴリラは人間である」という命題に説得力を与えているように感じました。まぁ、

そうはいっても、さすがに強引な意見にも思えましたが・・・。人間の言葉を

理解する賢いゴリラのローズ。カメルーンのジャングルから、アメリカの動物園

に渡ったローズは、そこでオマリというオスのゴリラを夫婦になる。幸せいっぱい

の生活を送れると思っていた矢先、見物客の人間の子供がゴリラたちの檻の中に

落ちてしまい、子供に近寄ったオマリが銃殺されてしまう。オマリは子供を助ける

為に近寄ったのに。なぜ、射殺されなければならなかったのか。納得が行かない

ローズは、ゴリラたちの正義の為、動物園相手に裁判という手段に出ることに――。

なかなか荒唐無稽な設定の作品だなぁと思ったのですが、実際にアメリカで起きた

事件を元に描かれているのだそう。アメリカらしいですよねぇ・・・。まぁ、

ローズのキャラ設定は、さすがにフィクションでしょうけど。なんせ、プロレスが

好きで、プロレス団体に所属して試合に出て活躍しちゃったりまでするんですから。

こんなゴリラがいたら、そりゃ人気出るよな~と思いました。魅力的なローズの

キャラは良かったのですが、終盤の裁判に至るまでがちょっとだらだらと長くて、

中だるみな印象は否めなかったです。ローズがジャングルからアメリカの動物園

に行くまでの経緯をじっくり丁寧に描写したかったのかもしれませんが・・・。

そこは、もう少しコンパクトでも良かったかな、と。物語の肝となる終盤の裁判の

部分は面白かったのですけどね。「ゴリラは人間である」をいかにして証明する

のか、という部分は、なるほど、こういう理論で来たか、と思いましたね。

ゴリラの人権(ゴリラ権?)のため、未来のため、裁判を仕掛けたローズの判決が

どういう形で出るのか、そこが一番の読みどころかな、と思います。なかなか

興味深い作品でしたね。ゴリラが主人公ってだけでも、新鮮でしたしね。