ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

小川哲「君が手にするはずだった黄金について」(新潮社)

初小川作品。気になってる作品はたくさんあるのだけど、とにかく予約が多くて

手が出せない。特に『君のクイズ』は読みたいと思っているのだけど、200人

以上の予約があるので諦めて、文庫落ち待ち。本書は、新刊時に早めに予約

しておいたので、思ったよりは早く回って来ました。

ただ、エッセイなのか小説なのか、判断に悩む作品でしたねぇ。強いていえば

私小説ってことになるのかなぁ。どこまで現実なのか、読んでいてわからなく

なってしまいました。実名なんかも出て来るし。主人公は小川哲さんなのは

間違いないんだろうけど、作者と同じ名前の登場人物ってだけな感じもするし。

大部分は自分が反映されているのは間違いなさそうなんだけどね。でも、本当に

こんな事あったのかな?と疑ってしまうような出来事が出て来たりするから、

混乱してしまった。まぁ、フィクションだろうがノンフィクションだろうが、

面白ければそれでいいんだけどさ。

主人公の小川は(登場人物だと開き直って今後は敬称略採用)、正直ちょっと

理屈っぽくて面倒臭い性格だなぁと思いました。

こんな面倒なタイプなのに、友達もいるし彼女もちゃんと出来るんですよね。

不思議(失礼)。ただ、小川の考え方、共感出来なくもない部分も結構ある。

作家なだけに、言葉に説得力があるせいかも。なるほど、そういう考え方も

あるなーとちょいちょい感心させられたりもしました。例えば、東日本大震災

の前日のこと。誰もが、地震の当日の行動は覚えているけれど、その前日に

何をしていたのかって聞かれると、覚えていない人が多いっていう話。確かに、

言われてみると、私自身も、地震の当日何をしていたのかは鮮明に覚えている

のに、前日のことは全く記憶から抜け落ちている。小川は、それが気になって

仕方がなくなり、なんとかして前日の記憶を取り戻そうとする。その過程も

面白くて、少しづつ思い出して行く前日の記憶の果てに、まさかの事実に辿り

着いて、驚かされました。人間って、往々にして記憶の改ざんを無意識に

しちゃってるものなんでしょうねぇ・・・。都合の悪い事実は捻じ曲げる。

思い出したくない過去には蓋をする。歴史と同じように。

それ以外にも、オーラリーディングの占い師にはまった友人の嫁とか、投資詐欺で

炎上するデイトレーダーの友人とか、偽物のロレックスを身に着けて嘘ばかり話す

漫画家とか、うさんくさい人がいっぱい出て来ます。

有り得そうで、そうそう身近にはないような話が出て来て、小川さんって、本当に

こんな経験しているのかな~?と疑いたくなるようなエピソードばかりだった。

ノンフィクションっぽく書かれたフィクションってのが正解なんだろうなぁ。まぁ、

どちらにせよ、面白く読んだことは確か。小川さんが非常に頭の良い人だという

こともわかりました。

最後の『受賞エッセイ』に出て来た、『熱い氷』という短編は実在するのかな。

実在するならこのクレジットカード不正利用の話も信憑性があるのだけどね。

しかし、自分のクレジットカードがどこかの国の人間に勝手に不正利用されるって

ほんとに怖いな。どうやってカード情報を入手されたんだろうか。どうやって

防げばいいのか・・・。

いろいろと身につまされる話が多かった。甘い言葉や儲け話には気をつけようっと。

ひとつ気になったのは、腕時計を『巻く』という表現。個人的に、腕時計は

つける、とかはめる、とかの表現しか使ったことがなかったので、ちょっと

違和感ありました。腕時計を巻く、というのは普通に使われるものなのかな?

誰か教えて下さい~。