ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

加納朋子「カーテンコール!」/東川篤哉「探偵少女アリサの事件簿 今回は泣かずにやってます」

どうもこんばんは。先日、芥川・直木賞が決まりましたねー。芥川の方は毎度ながら
興味ナシなんで(おい)おいておいて、直木賞は門井さんでしたね。さすがに、
セカオワのサオリさんはなかったかー。正直、ちょっとほっとしました。芥川の方
ならともかく、やっぱり直木賞にはそれなりに実績のある方に獲ってもらいたいですから。
サオリさんが今後も書き続ける力があるのならば、またノミネートもされるでしょうし。
個人的には、彩瀬さんに獲って頂きたかったなぁ。ちょうどノミネートされた『くちなし』
回って来たところだったし。残念。門井さんは、初期の頃は良く読んでいたのですが、
まさか直木賞まで登りつめる作家さんになるとは思いませんでした。最近は題材に好みな
ものがなく、全然読まなくなってしまっていたので、今どんな文章や作品を書かれているのか
わからないのですけれど。無駄に難しい用語を頻用するところがいつも気になってたんだけど、
相変わらずなのかな。また美術ミステリー書いてほしいなぁ。


今回も二冊ご紹介。

 

加納朋子「カーテンコール!」(新潮社)
加納さんの新刊が出た!というだけで、心が踊ってしまいます。今回もとても素敵な
作品集でした。ちょっと変わった設定の連作短編集になっております。心や身体に
何らかの障害やコンプレックスを抱えた、マイノリティーな女の子たちが主人公。最近、
こういう題材を取り扱うことが多いのは、やっぱりご自身の経験が効いているのかな。
主人公たちは、春に閉校が決まった大学に通う四年生たち。卒業を間近にして、彼女
たちは何らかの問題があって、留年が決まってしまう。しかし、学校は閉校が決まっている。
そこで、学校側が苦肉の作を打ち出して来た。彼女たちに、半年間の補習期間を設け、
それを最後まで受ければ卒業させる、というもの。しかし、その期間は学校の敷地内に
泊まり込み、外出はおろか、携帯もネットも一切禁止という、隔離状態に置かれるのだ。
果たして、彼女たちは逃げ出さずに半年間補習を受けることが出来るのか――。
一話目の『砂糖壺は空っぽ』は、アンソロジーで既読でした。まさか、あのお話が、
こんな風な連作短編の一話目になるとは、全く思いもしませんでした。一話ごとに
主人公が変わって行きますが、それぞれにリンクしているので、前の主人公がちょこちょこ
次のお話やその後のお話でも登場して行きます。
補習を受けることになった女の子たちはみんな当然ながら問題ある生徒ばかり。
正直、ほとんどのお話の主人公が、読み始めはあまり好感持てなかった。単位を
落とした理由が、朝起きられず遅刻ばかりしていたからとか。怠惰にもほどがある!
と思ってしまって。そもそも、時間や約束事にルーズな人間が好きじゃないんで、私。
あとは、学校に通うよりも、やりたいことを優先させたいが為に、半年間休学して
遊び回ってたからとか、親に学費出させておいて何やってんだか、と呆れ果てたりも
しましたし。ただ、読み進めて行くと、それぞれに遅刻や休学にはそれなりに理由が
あることもわかったので、読み終わりには嫌悪感は大分薄くなって行きましたが。
マイノリティーで落ちこぼれの彼女たちの心に寄り添って、手を差し伸べる理事長の
存在がいいですね。一話で出て来た時は、こんな理由ありの学校だとも、理事長が
こんな重要なキャラクターだとも思わなかったのですが・・・^^;
そして、最終話では、そんな理事長がなぜ彼女たちの卒業にこれだけ熱心だったのか、
その理由が明らかにされます。理事長の過去には、心が痛みました。その経験があるから、
最後の卒業スピーチが泣けて仕方がなかった。孫のこともそうだけど、なんで理事長
ばかりがそんなに辛い思いをしなきゃいけないのかな・・・と悲しくなりました。
理事長の姉が家族に宛てた葉書の中に隠された悲痛なメッセージが胸に刺さりました。
もっと早く気づいていたら・・・。ああいう時代だからこそ、理事長の姉のような
被害者はたくさんいたのかもしれませんが・・・。
でも、理事長自身は全然後ろ向きじゃなくて、その年になっても、ちゃんと前を向いて
明日に向かって生きている。学園の廃校は悲しいけれど、その次のこともきちんと
考えていて、落ちこぼれの学生たちの明日のこともきちんと考えてくれている。
この補習で経験したことが、きっと卒業後の彼女たちの人生に役立つ日がきっと
いつか、来ると思う。ダメダメだった彼女たちの卒業後の人生が、そんなに簡単に
いい方に行く訳もないと思うけれど、それでも、いつかは。
補習の期間、生徒たちは二人部屋で生活することになるのだけど、理事長が考えた
その組み合わせも絶妙だったと思う。それぞれの性格を熟知した上でのベストな
部屋割りに唸らされました。理事長にとっても、彼女たちと過ごした半年間は
幸せな経験になったんじゃないのかな。
卒業後の彼女たちの人生も、理事長家族の人生も、幸せであって欲しいと願わずに
いられません。
やっぱり、加納さんの作品はいいなぁ。読み始めは、正直、また障害を抱えた
主人公たちかぁ・・・と若干主題のマンネリ化に辟易しかけたのだけれど・・・最後まで
読めば、マンネリなんてとんでもなかったことがわかる。加納さんは、やっぱり
加納さんだ。はずれなんて、あるわけがない。
読み終えて、ほっと心が温かくなりました。


東川篤哉「探偵少女アリサの事件簿 今回は泣かずにやってます」(幻冬舎
シリーズ第二弾。テレビドラマ化もされて、人気のシリーズになったんですかね。
単発だったから、第二弾もあるといいな、とは思っているのだけれど。できれば、
連ドラ化してもらいたいなー。本田望結ちゃん可愛かったしね。
南武線武蔵新城に住む探偵の橘良太が、隣駅の武蔵溝ノ口に住む名探偵夫婦の娘・
アリサと共に難事件を解決する連作ミステリー。南武線沿線の駅がいろいろ出て来る
のも、南武線利用者の私にはちょっと嬉しいシリーズだったりします(といっても、
降りたことがある駅は数えるくらいしかないけど^^;)。先日も何かの番組で
武蔵小杉と隣の駅(新城だったか溝ノ口だったか忘れちゃったけど)の住人の対抗意識
を取り上げていたのを見たばかり。武蔵小杉はここ数年で本当にセレブな街に変化
しちゃいましたもんねぇ・・・。
この作品では、新城VS溝ノ口って感じですけど(小杉は栄え過ぎてて戦いにならない)。
隣の駅に対抗意識を燃やす気持ちはわからなくもないなぁ。駅ひとつで駅前の栄え方も
全然違ったりしますもんねー。
今回も、ゆるい作風に反して、トリックはちゃんと本格、は健在。特に、一話目の
キャンピングカーによるトリックは非情によく考えられていて、感心しました。明らかに
伏線だと思える箇所には引っかかっていたのだけど、ああいう風に繋がるとは・・・!
タンクローリーのミニカーから、あそこまでの推理を思いつくなんて、アリサちゃんは
ほんとに天才だと思う。恐ろしい子、アリサ・・・!
二話目の秘伝のタレ盗難事件は、犯行手口はだいたい予想した範囲内だったのだけど、
後日談には驚かされました。普通、同じ壺に作り直すと思うところだけど・・・それも、
ちゃんと理由がフォローしてあったので、溜飲が下がりました。しかし、長年使って来た
秘伝のタレを入れた壺をアッサリ捨てようとするとは・・・なんて店主なんだ^^;
三話目は、運動会のビデオ撮影に纏わるミステリ。アリサと同じ小学校に通う女子生徒の
親から運動会の撮影を頼まれた良太は、同じくアリサの父親からもアリサの撮影を
頼まれ、二台のカメラで運動会を撮影する羽目に。そこで高級腕時計の盗難事件に
巻き込まれることに。理奈カメラに起きたことは、だいたい予想通りでした。犯人までは
推理できなかったですけどね。理奈ちゃんの父親が良識ある人でほっとしました。
四話目は、良太と付き合いのあるお笑いコンビの片割れが殺され、相方が容疑者となって
浮かび上がる。良太は、事件の直前、たまたま二人がネタ合わせをしているところに
通りがかっていた――。良太が見たネタ合わせの秘密には驚かされました。確かに、
そういうお笑いが実現したら、面白そうではあるなーと思ってましたが・・・あの
コンビが実戦しているとは。普通に漫才しているところしか見たことないけど。実際の
ネタ、見てみたくなりました。
今回も、どのお話もとても楽しめました。良太とアリサのコンビもいい感じになって
来ましたね。次回作も楽しみです。