ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

ほしおさなえ「菓子屋横丁月光荘 光の糸」(ハルキ文庫)

シリーズ第六弾にして、最終巻。家の声が聞こえる青年、遠野守人は、間借り

している月光荘の二階をイベントスペースとしてオープンさせ、管理人として

忙しい日々を過ごしていた。しかし、自分と同じように家の声が聞こえる喜代さん

が亡くなったことが想像以上に堪えており、気持ちが塞がるばかりだった。

そんな中、月光荘のオーナー・島田から、大学の恩師・木谷とともに、狭山市

古民家をリノベーションした蕎麦懐石を食べに行こうと誘われる。「とんからり」

というその店に行くと、守人は「とんとん からー」という不思議な音と共に、

「マスミ」とつぶやく家の声を聞く。この家は何かを訴えている――。

最終巻らしく、これからの守人の生き方を示唆するような終わり方でした。蕎麦

懐石店「とんからり」に行ったことで、物語が大きく動いたように思いました。

若干偶然が過ぎるような気もしますが、それも運命ということで。守人が家の

声を聞くことが出来たことによって、「とんからり」の家の訴えにも気づくことが

出来たし、その声に応えてあげられて良かったと思う。「とんからり」の希望には

応えられなくても、家自体がその理由に納得出来たのだから。大切に受け継がれて

来た古民家がなくなってしまうのはとても悲しいし寂しいけれど、最後に家の歴史

を知ることが出来て、関わった人たちにとってはとても良かったと思う。これも

守人のおかげですよね。もうひとつ、守人の友人・田辺の家のことにもほっと

しました。喜代さんの思い出が詰まった大事な家、新しい形で遺せることになり

そうで良かったです。守人にとっても、喜代さんの気配の残る家がなくなるのは

辛いだろうし。田辺は良い決断をしてくれました。これから、それを維持して

行くのはとても大変なことが多いとは思いますが。SNSなんかを駆使して、なんとか

集客出来ると良いのだけれど。今はいろんなツールがあるから、そういう意味では

便利ではありますけどね。古民家カフェとか流行っているしね。

他人と関わることを避け、孤独だった守人は、月光荘に住み始めたことで、

たくさんの人との出会いがあり、成長することが出来たと思う。少しづつ、

人と人を繋ぐ糸が紡がれて行き、大きな輪が出来た。きっと守人の『家の声が

聞こえる』能力も、意味があるのだと思う。とても素敵な能力だと思います。

月光荘との関係も、これから続いて行ってほしいですね。将来的には、そこを

出ることになるのかもしれませんが、管理人として、ずっと関わって欲しいと思う。

意外だったのは、守人が心を寄せる人物。私はてっきり、べんてんちゃんが相手

になるのでは、と思っていたのですが・・・そっちかー!と思いました。でも、

守人が自分の小説を一番に読んでもらいたい、と思った時点で、もう心は決まって

いたのでしょうね。上手く恋が成就すると良いけれど(まぁ、あの雰囲気だと

大丈夫でしょう)。

月光荘シリーズはこれで完結みたいですが、川越を舞台にした他シリーズも

まだまだこれから書かれて行くでしょうから、守人や月光荘ともまたどこかで

出会えるでしょう。三日月堂のようにね。

大好きなシリーズだったので終わるのは寂しいけれど、ラストに相応しい物語

だったと思います。古き良き物を形を変えて後世に残して受け継いで行く。

ほしおさんの物語は、いつも古き物への愛情に溢れていて素敵だなぁ。