ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

畑野智美「若葉荘の暮らし」(小学館)

多分初めましての作家さん。新聞広告であらすじ見て、面白そうだなぁと思ったので

予約してありました。40代以上の独身女性専用のシェアハウスでの出来事を綴った、

すべての女性にエールを送るような作品でした。

なかなかに身につまされる内容で、心に刺さるシーンがたくさんありましたねぇ。

四十歳になったばかりのミチルは、飲食店のアルバイト店員。コロナが蔓延した

ことで、収入が激減し、住居費節約の為、知人から紹介してもらった四十代以上

の独身女性専用のシェアハウス『若葉荘』に転居することに。シェアハウスと

いっても、家賃5万の、八十代のおばあちゃんが営む古いアパートだ。住民は

みな親切だが、それぞれに理由ありの事情があるようで・・・。仕事や私生活に

悩むミチルは、若葉荘で暮らす中で、自分らしさを見つけて行く――。

四十代以上の独身女性限定のシェアハウス、という設定が効いてましたね。

年代的には私も当てはまるので(既婚なので入居条件には当てはまりませんが)、

共感出来る部分も多かったです。これが、もっと若い世代対象の設定だったら、

また全然違うお話になっているのだろうなぁと思いました。入居者間でもっと

いろんな諍いが起きたりね。主人公のミチルのこの年齢ならではの迷いや悩み

も、わかるわかる、って思えるものばかりだった。私も結婚遅くて、出会いも

なかった三十代の半ば辺りでは、このままこの先一人だったら・・・って老後の

こととか、いろいろぐちゃぐちゃ考えて凹んだりしたこともたくさんあったから。

幸いなことに、今の相方と出会えましたけど、もしそれがなかったら、多分

いまだに独身のままだったと思う。その状態でもしこの作品読んだら、また

全然違う感想を持ったかもしれないです。恋愛もなく、収入も少なく、取り

立てて誇るべきものもなく。自分って一体何の為に生きているんだろう、と

自問自答して、堕ちるところまで堕ちていたに違いない自分がミチルと重なって、

辛い読書になっていたかも。でも、若葉荘で他の住民たちと交流することで、

ミチルは少し、前向きに生きることを学ぶことができた。やっぱり、人間は

誰かと交流することが必要なんだなぁと思わされました。自分を自分として

認めてくれる人が一人でもいてくれるって大事。自分一人じゃ気づかないことも

教えてもらえるし。若葉荘の住人は、ほとんどがミチルより年上の人ばかり

だから、人生の先輩として学べることもたくさんある。かといって、若い子たち

みたいにベタベタした関係にもならないから、程よい距離感で付き合えるところも

いいですね。まぁ、こればかりは、年齢関係なく、距離をつめてくるような人が

いたらまた違って来るのだろうけれど。ミチルが入居した時の住民たちはその

辺り、程よい距離を保つ人ばかりだったから良かったのかも。若干、小説家の

千波さんは微妙な感じだけど。テーブルの下で丸くなって登場した時は面食らわ

されましたねぇ。初対面でソレは怖いよ!^^;;ちょっと面倒な人ではある

けど、基本的には良い人だからミチルも仲良くなれたのでしょうけどね。

ミチルが勤める飲食店のコロナ禍事情の厳しさも、ひしひしと伝わって来ました。

コロナが始まってから、ミチルのような境遇にいる人はたくさんいるんだろうな。

ミチルは最後に、自分のやりたいことを新たに見つけられて良かったと思う。

でも、ミチルのようには見つけられない人の方がきっと、世の中には多い。

でも、見つけられなかったとしても、こうやって毎日誰かとほんの少しでも

繋がっていられたら、それだけで心の支えになるんじゃないかな。

トキ子さんの年齢的に、終盤の展開は致し方ないところもあると思うけれど、

やっぱり切なかった。その後の若葉荘のことが心配になったけれど、良い道が

見つかってほっとしました。ちょっとうまく行き過ぎな気がしないでもなかった

けれど、そのことも見越して、トキ子さんが真弓さんのようなキャリアウーマン

を入居させていたようなので、トキ子さんは素晴らしい家主だな、と改めて思い

知らされた気持ちでした。

生涯未婚率がどんどん上がる中、若葉荘のように四十を過ぎた未婚女性の居場所

があるって大事なことだな、と思いました。

今の時代にぴたりと合った作品だと思う。面白かったです。