ミステリ読書録

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越谷オサム/「せきれい荘のタマル」/小学館刊

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越谷オサムさんの「せきれい荘のタマル」。

静岡から東京の大学に進学した石黒寿史は、同郷である法村珠美(のりたま)への恋心から、同じ
映画研究部に入部する。しかし寿史は、やたら面倒見のいい、同サークルの先輩・田丸大介(タマル)
につきまとわれ、早朝マラソンに付き合わされそうになったり、あきらかに怪しいサークルの
BBQに参加させられたりと、振り回されっぱなしの日々。あげく、タマルまでがのりたまに恋心
を抱き、猛攻撃を始めて―(あらすじ抜粋)。


『空色メモリ』が面白かったので、他も読んでみたいと思っていた作家さん。なんとなく、
タイトルに惹かれて読んでみました。うん、面白かった。なんか、読んでて、ちょっと少し前
に読んだ吉田修一さんの横道世之介を思い出したんですけど。いや、世之介はタマル先輩程
強烈なキャラじゃないですけど^^;でも、多分タマル先輩も、多少なりとも交流があった人
にとっては、何年か経って、『あんな人いたよなぁ』って懐かしく思い出してもらえる人物じゃ
ないかな。まぁ、その記憶には多少なりともマイナスの感情も入っているかもしれないですが^^;

とにかく、途中までは、タマル先輩の傍若無人な、人の迷惑顧みず、な性格にイライラムカムカ
して仕方なかったです。極めつけは、石黒の携帯投げちゃった所かなぁ。ほんと、これはいくら
なんでも酷過ぎる!とムカつきすぎて、読むのやめようかと思ったくらい。悪意がないって言った
って、なんでもして良い訳じゃないでしょうに、と。でも、タマル先輩がバイトを辞めさせられた
理由を知った辺りから、彼のことが憎めなくなって、新興宗教団体の教祖の嘘を暴いてやり込めた
シーンで、彼のおせっかいな性格の原因を知って、より彼に感情移入出来るようになりました。
大河内を涙ながらに罵倒したシーンは胸がすくような思いがしました。巷に蔓延る怪しげな新興
宗教団体は、こういう手口で信者を篭絡していくんだろうなぁ、と気分最悪で読んでいたので。
やり口がほんと汚いというか。気持ち悪かった。ホット・リーディングコールド・リーディング
という言葉は初めて知りました。こういう方法自体は知っていたのですが。口が巧い人なら、いくら
でも、こういう手口を駆使して人を騙すことが出来るんでしょうね・・・嫌だ、嫌だ。

彼らを引きずり込んだ山縣さんに対しても最初は嫌悪しか感じなかったのですが、そうなって
しまった事情がわかったら、彼女が哀れになりました。三輪に関しては、最後まで嫌悪しか感じ
なかったですが。ほんとに、最低男でしたね。彼の母親も最低。この親にしてこの子あり、の典型
なんじゃないでしょうか。彼らの言動にはほとほと呆れました。

タマル先輩と石黒が拉致されそうになった時にはハラハラしましたが、事件が発覚した後の、
タマル先輩の行動がいかにも彼らしくて、ほんとに、真っ直ぐな人だなぁ、と石黒同様、苦笑
したくなりました。それに付き合う石黒も、なんだかんだいって、ほんとお人好しですよね。
お人好し度で云えば、相手の迷惑を考えられる分、石黒の方がさらに上な気がするな(苦笑)。
タマル先輩に振り回されっぱなしだったから、最後くらい彼に良い目を見せてあげて欲しかった
のに・・・あのラストにはのけぞりました。まさか、まさか、そういう展開になるとは・・・。
そういえば、『空色メモリ』でも似たようなラストで愕然としたような覚えがあるんですが・・・
越谷さんって、もしかして、かなり意地悪な人なんでしょうか^^;
私がのりたまと同じことやられたら、絶対こういう感情は生まれないと思うんですけどね・・・
こういう奇特な女性もいるってことで。同性ながら、のりたまちゃんの出した結論にはほんとに
目が点になってしまいましたよ^^;でも、それはそれで痛快でしたけどね。ただまぁ、この先
すごい苦労しそうな感じはしますけど^^;

超弩級の迷惑男・タマル先輩のキャラがとにかく光ってました。最初は誰もが嫌悪を感じると
思うんですが、最後まで読んだら、きっと彼のことが憎めなくなってる筈です。せきれい荘のある
京王線高幡不動駅は、私の出身大学ともすぐ近くで、大学時代は毎日乗り換えで使っていたので、
ほんとに自分の大学時代と重ねながら読んでました。懐かしかった。さすがに、こんな傍迷惑な
先輩はいなかったですけど^^;身近にいたら多分物凄い苦労すると思うけど、同じサークルに
いたら、彼のせいで(おかげで?)ちょっと人とは違った大学生活が送れるかもしれないですね(苦笑)。
ちょっと風変わりな青春小説が読みたい人にはお薦めしたいですね。面白かったです。