ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

近藤史恵「スティグマータ」/柚木麻子「王妃の帰還」

どうもこんばんは。
みなさま、三連休はいかがお過ごしでしたでしょうか。
私は、明日の午前中出勤して、午後から早めの夏休み突入。夕方便で日本を立ちます。
行く場所は、ちょっとだけヒントを出しておくと、アジアのどっかの島です(笑)。
のんびり、リゾートしてきまーす。テロ怖いけど・・・大丈夫だよね^^;;
無事に帰ってこれますように・・・(切実)。


今回も二冊ご紹介。今日読み終えたのが1冊あるけど、そっちは旅行から帰って来たら
アップしますね。

近藤史恵スティグマータ」(新潮社)
久しぶりのサクリファイスシリーズ新刊。第五弾になるようです。うち二作は番外編
みたいな感じだったから、純粋なシリーズとしては三作目になるのかな。チカは
三十歳になり、フランスバスク地方バイヨンヌを拠点とする、オランジュフランセ
というチームで走っています。エースのニコラのアシストとして。今年も、ツール・ド・
フランスのメンバーに選ばれたチカだったが、不穏な噂を耳にする。五年前、ドーピング
で自転車界を追われたドミトリー・メネンコがツールで復活するという。かつてはソ連
残した最後の至宝と呼ばれるほどの選手だったメネンコ。しかし、薬物に手をかけ、
多くの人を失望させた。情報に揺れるチカの前に、なぜか当のメネンコがコンタクトを取って
来た。彼は、今、何者かに脅迫されており、その脅迫の相手が、チカのチームメイト
かもしれないのだという。メネンコは、その人物から恨まれる身に覚えがあるらしい。
そこで、レース当日まで、その人物の行動に気を配っていて欲しいというのだ。チーム
メンバーが何かしでかすのは、チーム全体にも迷惑がかかる。不本意ながらも、
申し出を受け入れるのだが――。

チカがもう三十だということにちょっと驚きました。『サクリファイス』の時は、
小生意気な若造って感じだったような覚えがあるんですけど。性格は随分落ち着いて、
大人になったように思いました。他人への接し方も、随分柔らかくなったような。
かつてドーピングで自転車界を追放された選手と一緒にツールを走る。チカにとって、
憧れの選手でもあっただけに、複雑な心情が描かれます。しかも、彼には裏の顔が
あると知ってしまう。チームメイトのアルギの妹にメネンコがしたことは、女性の私から
したら、絶対に許してはいけないことだと思います。彼がなぜ、彼女にそんなことを
したのか、その真意は結局よくわかりませんでしたが・・・。
今回も、自転車ロードレースにおける、『エース』と『アシスト』の関係が深く
掘り下げてあると思います。『エース』は、『アシスト』なくしては優勝出来ないし、
『アシスト』が『エース』を勝たせれば、それがチームの幸せにも繋がることだと
言うのがよくわかりました。だから、チカはあれほどにエースの為に献身的な仕事が
出来るのでしょうね。読めば読むほど、ロードレースの世界というのは、普通の
競技と違うことがわかる。奥が深いですね。実物をちゃんと見たことがないので、
いまいち理解出来ない部分もあるのですけれど。
そういえば、今、ちょうどツール・ド・フランスの時期なんですね。読む時期としても
非常にタイムリーだったみたいです。日本だと全然報道されないからわからなかったけど。
BSとかでは放送しているのかな。
一作目以降、チカが恋愛方面に関しては全く興味がなさそうなのが心配だったんですが、
アルギの妹ヒルダとはちょっといい雰囲気になりそうな気配ですね。恋愛ベタのチカが
どこまで踏み込めるかにかかっているような気もしますが(苦笑)。
まぁ、結婚とか、そういうのは全く興味なさそうですけど・・・そりゃ、チーム契約が
一年ごととかの世界じゃ、身を固めるって言ったって難しいですよねぇ・・・。
ロードレースの世界って、結構シビアなんだなぁと思わされましたね。特に、チカの
ようなそれほど有名じゃない選手って、引退後はどうやって食べて行くのだろう・・・。
普通に企業に就職したりするのかな。フランスは失業率がすごい国だから、簡単には
職業も見つかりそうにないだろうし。大変そうだなぁ。まぁ、チカなんかは日本に
戻って来るんでしょうけど。なんだか、いらない心配をしてしまった^^;
一応、最後にちょこっとミステリ的な要素は入っていますが、ほぼとってつけたような
もので、ほとんど驚きはなかったですね。メネンコの思惑はなんとなく予想出来ましたし。
もはや、このシリーズはミステリとして書かれている訳じゃないのだろうなぁ。
まぁ、ロードレースものとして十分面白く読めるので、あまり気にならないですけども。
終盤、チカがニコラと先頭を走るシーンで、ニコラが先に行けと言ったのに、最後まで
アシストとしての自分を貫いたチカがかっこ良かったです。人生で初めての栄光を手に
していたかもしれないのに。それでも、自分の役割を真っ当して、ニコラに花をもたせた
チカのアシスト魂(?笑)に心を打たれました。チカはやっぱり、素晴らしいアシスト
だと思います。
チカは、来年もツールに出場出来る可能性を得ました。まだまだ、彼はロードレースを
続けて行くのでしょう。彼の今後の活躍も、是非書き続けて頂きたいです。


柚木麻子「王妃の帰還」(実業之日本社
三年程前に出た作品らしいです。読み逃していたので、予約してみました。柚木さんの
作品は、少しづつ未読を減らして行きたいので。
そんな前の作品の割に、予約が多くて、半年以上は待ったのじゃないかな。最近すごく
人気が出て来たので、過去の作品もたくさん予約が入っているようです。
でも、読み始めたらほぼ一気読み。一日で読んじゃいました。
中学二年の女子中学生たちが主人公。中二病そのまんまの内容とも言えるかも(苦笑)。
クラス内のヒエラルキーならどこの学校にもあると思うんですが、彼女たちが通う
学校は、カトリック系のお嬢様学校。雰囲気もちょっと普通の学校とは違っています。
こういう世界がほんとにあるのかなぁと思いながら読んでたんですけどね。私、普通の
公立学校しか知らないもので^^;
物語の発端は、クラス一の美少女で王妃のように君臨していた滝沢さんが、同じクラスの
安藤さんの鞄に自分の腕時計を忍ばせて、彼女を罠にはめようとしたことを、担任の
星崎先生から問い詰められて、認めてしまったことから始まります。そこで認めたことから、
彼女の権威は失墜。彼女が所属していた姫グループからも放逐され、孤立してしまう
ことに。そこで彼女の受け入れ先として白羽の矢が立ったのが、主人公が所属する
おたくな地味グループ。地味な彼女たちが、キラキラ輝く王妃と行動を共にしなければ
ならなくなったことから、仲の良かった彼女たちの間に亀裂が走り、グループは
だんだんと不穏な空気になって行きます。このままでは、彼女たちの平穏な学園生活が
破綻してしまう。そこで、彼女たちは、元の姫グループに王妃を帰還させる計画を
企てることに――。

大抵、いじめで孤立してしまった生徒がいても、そのまま放置されるのが普通のケースだと
思うんですが、このクラスでは、ちゃんと次の受け入れ先を考えてあげるというのが
変わっているというか、面白いところだな、と。
あと、昨日までいじめの標的になっていた子が、上位グループに入った途端に権力を
身につけて上から目線で話し始めたり、地味グループにいた子が違うグループに
入ったら、そのグループのカラーにすぐに染まって外見まで変わってしまうとか、
グループ分けの力ってすごいな、と思わされました。大抵どこにも所属しない
一匹狼、みたいな子がいたりするものだけど、このクラスには一人もいない。みんな、
どこかしらのグループに入って、日々の学園生活を過ごしている。一人が爪弾きに
なったら、必ずその子の受け入れ先を考えるとか。不思議な友達関係だなーと
思いました。もちろん、どこの学校にもこういう友達同士のグループ分けって
あると思うし、そのグループごとのヒエラルキーってものがあるとは思うのですが。
ここに出て来るクラスのグループ分けは、そういうのとはまた全然違うものがあるな、と
思いました。お嬢様学校ならでは、なのかも?
王妃が、地味グループに入ったことで、少しづつ自分を変えて行くところは良かった
ですね。元の性格が、よくぞここまでひねくれたよ!ってくらいに酷かったので、
こういう経験があって良かったと思う。そのまま、王妃の地位で君臨し続けて学生生活を
終えていたら、とんでもない悪女が出来上がっていたのでは・・・怖っ^^;;
王妃が入ったことで、地味で目立たなかった主人公の範子も少しづつ強くなって行って、
終盤のある人物に対する糾弾のシーンでは、その成長ぶりが伺えました。結果はともかく、
皆の前であれだけの迫力を持って意見が言えたのだから、彼女にとっても良い経験に
なったのでは。範子がせっかく王妃の為に勇気を出したのに、当の王妃からの仕打ちが
ちょっと可哀想でしたけど。でも、王妃は王妃で、親友のことをちゃんと思いやれる
心が芽生えたのだから、良かったと思います。
元のグループに戻った王妃の態度が心配ではありましたが、ラストシーンでほっと
しました。グループ分けなんか関係なく、みんな友達でいいじゃない。
これからの彼女たちの物語も読んでみたくなりました。こういう学園ものを読むと、
自分が同じくらいの時のことを思い出しますね。私も、仲良しグループのみんなで
バカなことばっかり言い合ってはしゃいでいたなぁ、とか。懐かしい思い出ですね。
この時期の友達同士の関係って、面倒くさいことも本当にたくさんあるけど、
楽しくてキラキラしているんですよね。そういう部分がとても良く描けていると
思いました。面白かったです。