ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

下村敦史「そして誰かがいなくなる」(中央公論新社)

下村さん最新作。乱歩賞でデビューされた下村さんですが、意外にも初の本格

ミステリーだそう。確かに、雪で閉ざされた洋館に集められた男女が殺人事件に

巻き込まれるという、設定からしてこってこてのクローズドサークルミステリー。

本格を何より愛するワタクシとしては、設定だけでもう、よだれが出ちゃうくらい

好みでワクワクしながら読んでいたのでした。ぐふふ。出てくる登場人物には、

一切好感持てる人物がいなかったですけどね。これもまぁ、本格ミステリ

セオリーに則ってる感じなのかな、と(だいたい、人間が書けてないとか言われ

ちゃうやつ)。

作家生活20周年になる、人気作家・御津島磨朱季が、細部にまで拘って建てた

新築の館のお披露目会が開催されることになった。招待されたのは、新進気鋭の

作家や編集者、文芸評論家たち。会は和やかに進行したが、仕事があるといって

早々に家主の御津島が退出してしまった。残された招待客たちが、各々自由に

過ごしていると、突然、どこかから御津島の断末魔のような叫び声が聞こえた。

各自で御津島の姿を探すが、どこにも見つからない。一体、作家はどこへ消えて

しまったのか。御津島は、初対面の挨拶の際に招待客たちの前で、晩餐の席で、

ある作家のベストセラー小説が盗作であることを公表すると予告していた。

それぞれが不安な時間を過ごす中で、第二第三の事件が起きてゆく――。

二転三転する真相には翻弄されました。御津島消失の真相は、それなりによく

出来たロジックで証明されて行くのですが、普通の本格ミステリの範囲を

超えるほどの驚きはありませんでした。正直、拍子抜けの真相だったと言わざるを

得なかった。ただ、最後の最後で更なる作者の大仕掛けが判明します。特に、この館

自体の真相には驚かされたなぁ・・・。作中に、実際の館の室内の写真が何枚か

挿入されているんですよ。良くこんなぴったりの内装の館見つけて来たなー、

もしかしたら、実在する館ありきでこの作品が書かれたのかな、とか思ったりも

してたんですが。まさかの事実が明らかに。これにはびっくりした。作者の隠し玉

ってこれか!と思いましたね。

確かにね、御津島磨朱季って、読みにくいし変なペンネームつけたよなぁと思って

たんですよね。本当の読みは『おつしま』だけど、読みやすいように『みつしま』

にしてる、とか妙に細かい設定もあったし。最後に明かされる事実によって、

そういった細々した伏線が全部、腑に落ちました。

その最後に明かされる事実に関して、いろいろ感想書きたいことはあるんですけどね。

全部、ネタバレになっちゃうので、敢えて書かないようにします。しかし、一生に

一回しか絶対に使えないネタですよね、これ。全ミステリー作家が、一生に一度は実際

やってみたいんじゃない?いやー、この御津島御殿、実際観てみたいなぁ。隠し

部屋の仕掛けとか、めっちゃオーソドックスだったけど、ワクワクしちゃいました。

こういう館で、ミステリーイベントとかやったら楽しそうだなぁ。

本格ミステリがお好きな方には楽しめる一作じゃないかな・・・たぶん。