ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

藤崎翔「三十年後の俺」(光文社文庫)

元お笑い芸人の藤崎さんの文庫新刊。新刊なのは間違いないけれど、単行本が

文庫化されたもののようで、単行本時はこちらも作中の「『比例区は「悪魔」と

書くのだ、人間ども』」の方がタイトルだったらしい。長ったらしいタイトルだし

内容がわかりにくいから、最後の方に収録されてるこっち(「三十年後の俺」)

の方をタイトルに変えたのかな。確かに、こっちの方がすっきりしていて良い

ような気がするな。

短編とショートショートが交互に六作づつ収録されていて、全部で十二編。

なかなかバラエティに富んだ作品ばかりで、楽しめました。かなりぶっ飛んだ

設定のものも多くて、さすが元お笑い芸人だなぁって思いましたね。これだけの

ネタがよく思いつくものだ。今の時代に合った題材を意外な視点で取り上げて

いたりして、盲点を突かれたって作品も多かった。

 

では、各作品の感想を。

『日本今ばなし 金の斧 銀の斧』

あの有名な昔話の『金の斧 銀の斧』を現代に持ってきたらどうなるか。神様の

話を誰も信じてくれないせいで、神様なのに散々な目に遭っちゃうところが、

哀れになりつつ可笑しかった。

 

 『ショートショート 貴様』

『貴様』という言葉が、昔と今とでは違った使い方をしているところから発展

させた作品。さすがに、こんな言葉遣いが敬語になる未来にはなってほしくない

です・・・。

 

『一気にドーン』

アンチエイジングで名を馳せる、美のカリスマ・香奈子。55歳の年齢をまったく

感じさせない美しさで巨万の富を得た。しかし、ある日突然一気に老けがやって

来て――。

いや、怖いわ。一晩で一気に老けるとか。そのせいでさんざんな目に遭ってしまう。

誰も自分があの美容のカリスマだと信じてくれない。ああいう状況になると、

巨万の富も何の役にも立たなくなるんですね。人間不信になりそうだ^^;

 

 ショートショート マッチングサイト』

なんでもマッチングサイトに頼って生きて来た僕。それで順風満帆の人生だと

思ったが、結婚して父親になった時の『父親像マッチングサイト』の結果が原因で、

人生が崩れて行く――。

マッチングサイトの大渋滞(笑)。自分の人生は自分で切り開くのが一番なんで

しょうね。

 

『伝説のピッチャー』

甲子園の伝説のピッチャーと言われて、鳴り物入りでプロ入りをした俺だったが、

その後はさっぱり活躍できず、年々年俸を減らされている。挙句の果てに、ギャンブル

に手を出し、巨額の借金を抱え、ヤクザに脅される羽目に。ある日、ヤクザから

今度の試合で八百長をしろと命じられるのだが――。

賭博なんかに手を出すからこんなことになる訳で。最後、起死回生の変化球が生まれた

のに、皮肉な結末に。でも、最後にあんな球が投げられて、野球選手としては本望

だったのでは。

 

 『ショートショート シンデレラ・アップデート』

あの名作童話の『シンデレラ』をここまでぶっ飛んだ作品にしちゃうとは^^;

でも、確かに、王子が靴のサイズだけでシンデレラを捜し当てたのは間違い

ないですよね。顔覚えてなかったって部分は盲点だったかも。こっちの、革命

起こしちゃうシンデレラ、かっこよくて好きかも(笑)。

 

『心霊昨今』

空襲で死んだ俺は、七十五年経つ今も、恨みを持って成仏できずに現世にいる。

現代の人間たちは、死者への恐れと敬意が欠けている。俺は、なんとしても、

こいつらに幽霊への恐怖を植え付けてやりたいのだ――。

主人公が、なんとかかんとか現代人に恐怖を与えようと四苦八苦するところが

健気でもあり、滑稽でもありました。確かに、心霊番組とか今はほとんどなくなり

ましたもんねぇ。なんだかんだで人が良い主人公には好感持てましたね。生まれ

変わった来世では幸せになってほしいですね。

 

 ショートショート 未来の芸能界』

ちょっとした不祥事で謝罪会見を行わなければいけなくなった今を皮肉った作品。

コンプライアンスが叫ばれる今のご時世を考えると、未来の芸能界は本当にこんな

風になっているかも・・・。

 

比例区は「悪魔」と書くのだ、人間ども』

悪魔の恰好で選挙に立候補した、イロモノ候補のサタン橋爪。しかし、YouTube

を使った生配信が若者たちの心を掴み、なぜか当選してしまう。そして、橋爪

率いる『悪魔党』は、少しづつ支持率を上げて行き、ついに橋爪が内閣総理大臣

になる日がやって来る。そして、世界が橋爪の『悪魔運動』に感化されて行き――。

こういう、斬新で国民のことを考えてくれる政治家が現実にもいてくれたら・・・

とついつい読んでいて考えてしまった。このビジュアルはどうなの、とは思う

けども。ただ、最後に明かされる橋爪たちの正体には面食らわされましたが。

シュールすぎる^^;

これを単行本のタイトルに据えたのは、なかなか冒険だったんじゃないかなぁ。

インパクトはこちらの方があったかもですけどね。

 

 ショートショート 宇宙人用官能小説』

十八歳以上のメセランボ星人の為の官能小説。という訳で、地球人の私には

さっぱり意味がわからないのでした・・・ははは。

 

『三十年後の俺』

部活から帰宅して庭に自転車を停めようとしていた俺は、背後から声をかけられた。

知らないおじさんだった。しかし、どこかで見たような顔・・・すると、おじさんは、

『俺は、三十年後のお前だ』と言った。タイムスリップしてここにやって来たと

言うのだが――。

ラスト、思わぬ感動の展開に。途中からおじさんの正体にはピンときちゃう人が

多いんじゃないかな。それでも、その後の展開には胸を打たれました。ありきたり

といえば、ありきたりな内容かもしれないですが、私は好きな作品でした。

 

 ショートショート AI作』

恐ろしいのは、これが決して未来の話ではないところ。今でも十分あり得そうな

話だと思う。最後、ゴミ箱に捨てられた小説の作者は・・・。