ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森絵都「獣の夜」(朝日新聞出版)

久しぶりの森絵都さん。基本的には大好きな作家さんなのだけど、新作は読んだり

読まなかったりなんですよね^^;今回は短編集ということで読みやすそうだった

ので、借りてみました。

児童書のイメージが強い森さんですが、本書はそういうイメージを払拭するような

バラエティに富んだ短編集でしたね。ショートショート的な作品なんかもありまし

たし、ページ数も結構バラバラ。テーマもいろいろだったし。いろんな場所で

寄稿されたものを集めたみたいなので、それでかも。アンソロジーで読んだ作品も

入ってましたね。

 

では、各作品の感想を。

『雨の中で踊る』

コロナのせいで、入社二十五周年でもらえるリフレッシュ休暇で予定していた

海外に行けなくなってしまった俺は、最終日、妻に言われてフットマッサージに

出かけることに。しかし、不倫している妻の言う通りにするのがしゃくで、

急遽海へ行くことに――。せっかくのリフレッシュ休暇がコロナで潰されて

しまう主人公が気の毒で仕方なかったです。海で出会ったヨースケは怪しい老人

だったけど(脳内で鶴太郎さんに変換されていたw)、彼に出会ったこととで

主人公がいろんなものからふっきれていたらいいなと思う。

 

Dahlia

これは、アンソロジーで読んだ覚えがありました。一面のダリア畑の映像がなんとなく

記憶の端に引っかかっていたのを思い出しました。

 

『太陽』

突然歯が痛くなり、ネット検索で徒歩圏内の歯医者を探したが、どこも予約が

取れず、唯一予約のいらないという風間歯科医院にやってきた私。だが、診察

した院長の風間は、私の歯の痛みの原因は虫歯ではないという。どうやら、心因性

のものらしい。それ以降、私は何が私の歯を痛ませているのか探り始めるのだが。

主人公の痛みの原因が◯◯だとは。でも、こういう小さなことが、結構心に刺さる

って確かにあると思う。きっと、とても大事なものだった筈。原因がわかって

良かったです。それだけ大事なものなのだから、金継ぎとかで復活させてあげれ

ないかな、とか思ってしまった。

 

『獣の夜』

女友達の美也を急遽サプライズパーティに連れ出す役目を担った紗弓。しかし、

当の美也はなかなか思い通りに動いてくれず、寄り道ばかりしようとする。時間

までに美也をあの場所に連れていかなければ――。

これは、美也がいちいち紗弓の思惑から外れた行動ばかりするので、もしや、

わかった上でやっている!?と勘ぐってしまうくらいでした。かなり最初はイライラ

させられたけど、美也の状況を知ってからは、断然美也の方に肩入れしたくなり

ました。こんな状況でサプライズパーティを仕掛ける側の気持ちも全く理解

出来ませんでしたが。最後は女二人のジビエ祭りにスカッとしました。

 

『スワン(『ラン』番外編)』

『ラン』番外編と言われても、本編を読んでいないので全然主人公たちにピンと

来なかったのですが^^;ハタくんと小枝ちゃんのカップルは何だか微笑ましい

なーと思いました。スワンボートがしゃべるという展開に目が点に。こんな風に、

乗る人の心の澱を吸い取ってくれるボートがあったら、乗ってみたくなりますね。

本編読んでみたくなりました。

 

『ポコ』

飼い犬のポコが死んで、心がからっぽになってしまった朔。それでも、ポコはとても

強い犬だった――。これは、犬を飼っている人なら共感できるショートショート

じゃないかな。

 

『あした天気に』

自分で作ったてるてる坊主に、なぜかテルテル王国のてるてる坊主が憑依した。

夢の中で、テルテル王国の国王は、天気にまつわるお願いを三つ叶えると約束

してくれたのだが――。

これはほのぼのしてて楽しいお話でしたね。主人公のてるてる坊主に憑依した

てるてるがなんとも言えず愛らしくて。主人公との会話が微笑ましかった。

主人公が叶えたお願いの結果は、主人公にとっては皮肉な結果になったかも

しれないけれど、親友の死よりは遥かにいい。これによって気づけたことも

多かったと思うし、これからきっと主人公は幸せになれると思うな。