ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

楠谷佑「案山子の村の殺人」(東京創元社)

はじめましての作家さん。ミステリ・フロンティアの作品だったのと、タイトル

からこてこての本格っぽい雰囲気なのかと思って借りてみました。

ミステリ・フロンティア20周年記念作品だそうな。うーむ。なぜこの作品?って

感じではあったかなぁ・・・。それなら、刊行予定の梓崎さんの作品の方が

ふさわしかったのでは・・・と思ってしまった。

まぁ、確かに、設定だけなら、こてこての本格系統なのは間違いないのだけども。

 

※以下、ネタバレ感想含みます。

未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

秩父の山奥の、案山子だらけの村を舞台に繰り広げられる連続殺人事件の謎を、

大学生の合作推理作家コンビが挑む、というもの。雪の密室やら案山子の消失やら、

本格ガジェットはてんこ盛りだし、ご丁寧に読者への挑戦は二回も入っているしで、

作者の意気込みは随所で感じられるのだけど・・・むぅ。ここまでお膳立て

されていて、なぜあの凡庸な真相になってしまうのか。いやいや、まさかこの人が

犯人じゃないよね?って思ってた人が、そのまんま犯人だったという。一周回って、

これはこれで意外性があるといえるのか?^^;しかも、その動機がまたね。

何ソレ、って感じだったんで。よくもまぁ、その程度の思い込みで人を二人も

殺せるよ、と呆れました。完全に逆恨みとしか思えなかった。まぁ、世の中には

もっと単純な理由で殺人を犯す人もたくさんいるとは思うけどさ。それに、

真相に至るまでがだらだらと長くて、かなり中だるみの印象もあった中で、

その真相だったんで。もう、なんか、拍子抜けでしたね。案山子もそんなに重要な

アイテムって感じでもないし。いや、もうちょっと案山子を生かした真相書けたん

じゃない?って思っちゃったよ。

探偵役の大学生作家コンビのキャラも書き込み不足で、どちらもいまいち中途半端な

印象だったし。理久と真舟の関係をもう少し深堀りしても良かったのでは。真舟は

理久を溺愛してるっぽいから、そこをクローズアップさせると面白そうだし。

それに、せっかく大学生作家という設定にしたなら、もう少し青春要素をプラスしても

良かったようにも思う。旅館に招待してくれた理久の友人・旅路との友情を絡める

とかさ。ミステリとしても、青春小説としても、もう一歩深く踏み込んで書いて

ほしかったかな、と思いました。

錚々たるミステリ作家さんたちが絶賛のコメントを寄せているのが不思議で仕方

ないのですが。古典を愛しているのは端々から感じられたので、正統派な古典本格

を踏襲するような書き手って意味で期待されているのかな。

設定自体はめちゃくちゃ好みだっただけに、ちょっと期待外れだったかな。

一番印象に残ったのは、回文のペンネームっていうね(苦笑)。

ペンネームが回文になってる作者といえば、七河迦南さんを思い出しますが。

あちらは内容も素晴らしかったからなぁ・・・(新作ずっと心待ちにしている

のだけれど・・・今どうしてらっしゃるのかなぁ)。