ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

恩田陸「spring」(筑摩書房)

恩田さん最新作。天才バレエダンサーの萬春(よろず・はる)を巡る4つの物語。

蜜蜂と遠雷のような、芸術と小説を見事に融合させた作品を期待して読んだの

ですが・・・ちょっと、いや、だいぶ予想から外れた作品でした。ストーリーらしい

ストーリーがあまりなくて、物語の大部分が、春が演じた、あるいは春が作った

バレエの内容をだらだらと書き綴ったものが多くて、正直単調に感じました。

いつもの恩田作品を読む時のワクワクする感じが得られず、戸惑いました。1章から

3章までは他の人から綴る春のこと、最終章となる4章だけが春個人の視点で語られ

ます。他の人から語られる春は、その天才っぷりは際立っているものの、どうにも

掴みどころのない、天才肌過ぎてなんだかよくわからない人って印象でした。

ラストの春視点になることで、もっと春という人物のことがわかると思って期待

したのですが・・・結局、よくわからないままだった。そもそも、バレエの天才の

考えることなんて、凡人の私には理解不能ってことなのかもしれませんが。

最後の章に出て来た、春がひとりで踊る『春の祭典』にしても、細かく描写はして

いるのだけど、結局どんな内容なのかはいまいち伝わって来なかったし、その

すごさもピンと来ないままだった。『蜜蜂と遠雷』の時は、行間からピアノの

音が聴こえて来るような臨場感があったのだけど・・・。

恩田さん、随分緻密にバレエに関して取材をされたそうですが。その取材した

成果を書き記すのに夢中になるあまり、肝心の主人公春のストーリーがおろそかに

なっちゃったって感じなのかなぁ。春の舞台について詳細に描写した物語よりも、

私はもっと、萬春という人物がどんな風に生きて、バレエと向き合って来たのか、

バレエ以外の日常はどんな過ごし方なのかとか、そういう人間的な部分をもっと

読みたかったと思う。そういう意味では、唯一、第2章の、春の叔父である稔視点の

お話は比較的面白く読めたかな。稔と春の関係性も良かったですしね。

ただ、春の性的嗜好に関しても、こういう世界で生きているなら当たり前みたいな、

さらっとした書き方だったので、もう少し深堀りしてほしかった。それは七瀬に

関してもそうだったし。

王様のブランチで紹介されていたのをたまたま観ていたら、恩田さんにインタビュー

していた若いお嬢さんが、最後の春の章を読んで、春が大好きになった、みたいな

ことを話していたのだけど・・・私は、最後の章を読んでも、春という人物が

そんなに好きにはなれなかったな。なんか、人間味が感じられなくって。無機物

みたいな感じ?男性と付き合ってるのに、その母親と不倫したりするし。海外だと

(しかもこういうバレエの世界だと?)そういうのが当たり前なんですかね。

日本人の私には理解不能だよ。

大好きな恩田さんの作品で、こういう感想になるのは本当に珍しい。でも、

正直、読んでいてあまり面白いと思えなかった。期待していただけに、すごく

残念でした。読んでも読んでもなかなか面白くならないから、途中で何度も挫折

しかけてしまった。恩田さんだから読み切れたと思う。もう、意地で(苦笑)。

読書メーターの他の方の感想は絶賛ばかりでしたが。バレエに造詣があるかないか

でも評価が分かれるのかなぁ。でも、アマゾンの感想だと、逆にバレエに造詣が

ある人が酷評していたのも見かけたけどね。賛否両論分かれる作品なのかも?

左ページの左下にパラパラマンガがあるのは面白かったけど。バレエの動きが

ちゃんと表現されてるのが地味にすごいなと思いました(ここにパラパラマンガが

あること自体が、作品の雰囲気に合っているかは疑問を覚えなくもなかった

けれど^^;)。

ただ、春が、紅天女を踊ったのだけは、生で観てみたいなーと思いましたね。

ちょいちょい、ガラスの仮面リスペクトが出て来るところにニヤリとしちゃいました。

初版刷りの本には、巻末ページにQRコードがついていて、特別掌編が読めるように

なっています。読むの忘れてて、記事書いたから返しちゃおうと思って、図書館の

返却ポストに入れる瞬間に思い出して、慌てて返すのやめて持ち帰って読みました。

本編よりもちょっと人間味のあるハルの姿が読めるので、なんてことはないお話

だけど、読めて良かったかな、と思いました。