ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

歌野晶午「それは令和のことでした、」(祥伝社)

久々の歌野さん。令和の世の中で起きる様々な物語をまとめた一冊。イヤミスより

の作品が多かったけど、中にはラストでぐっと来る感動作なんかもありました(

珍しい!w)。

私は結構どれも楽しめたのだけど、アマゾンの評価見ると、歌野さんにしては

驚くほど低い評価の人もいて、ちょっとびっくりした。特に一作目のアレをくそみそ

に批評してる人がいたけど、私は単純に「ああ、そういうことだったのか・・・!」

と腑に落ちて、すっきりしたけどね。まぁ、そんな親いるかよ、とツッコミたく

なったのも間違いないけども。

先述したように、イヤミスばっかりかと思って結構身構えていたので、そうでも

ない作品もちょいちょい入っていて、ちょっと意外でした。ブラックな歌野作品を

期待している人には少し肩透かしな作品もあるかも。個人的には、歌野さんらしい

どんでん返しがはまってる作品も多く、短編集としてのクオリティは高いと思い

ました。

 

では、各作品の感想を。

『彼の名は』

ラスト一行のフィニッシングストロークが効いている作品。『絶望ノート』を

彷彿とさせるような、いじめの描写を読むのはキツかった。冒頭で主人公が母親を

殺した場面が出て来ます。なぜ母を殺すことになったのか?

エキセントリックな母親に振り回される主人公が可哀想だった。そして、ラストで

判明する極めつけの事実。子供は親を選べないんだよ。自分の名前もね(将来的に

変えることは出来るとしても)。

 

『有情無情』

なんともやりきれない一作。親切心が仇になるとはこのことでしょうね。その

トラウマがきっかけで、最後ああいう決断をしなきゃいけないなんて。世知辛い

世の中になったものだ。今の世の中では、知らない子供には、その子がどんなに

困った状況にあったとしても、声をかけない方が身のためってことなんでしょうね。

 

『わたしが告発する!』

引きこもりの姉の、どこまでも身勝手な言い分とふるまいにイライラムカムカ

しっぱなしでした。でも、こういうケースって、これからはどんどん増えて行く

のではないかな・・・。ここまで極端な結末にはならないでしょうが。

 

『君は認知障害で』

ちょっとした出来心が仇になって、やってもいない殺人の罪を着せられそうになる

青年の話。でも、そもそも、認知症の老人のお金を懐に入れようなんて思ったから、

こういうことになった訳で。自業自得ですね。主人公がやり取りしていた塵芥天使

の正体にはびっくり。そして、この作品で最後にあんな感動が待ち受けているとは

思わなかった。塵芥さんに主人公は一生感謝するべきですね。

 

『死にゆく母にできること』

これも毒親の母親が出て来ます。母親からずっと抑圧されて生きて来た人間の

末路。こういう形でしかその思いを相手にぶつけられなかったというのが何とも

やりきれない。母親も、こんな風に最後の最後で娘に逆襲される人生だとは思って

なかったんじゃないかな。病床の自分をいたわる優しい娘だと思ってたでしょう

からね。因果応報ってやつでしょうか。

 

『無実が二人を分かつまで』

普段は無口なのに、突然態度を変えたり、カラオケではしゃいだりする三田の

キャラのブレに違和感ばかりがあったのですが、終盤で明らかになる三田に関する

ある事実を知って、いろんなことが腑に落ちました。三田の恋人らしきキャバクラ

に勤めるミハルが、頑なに瀕死の三田を病院に連れて行きたがらなかった理由も。

ラスト一行のフィニッシングストロークも決まってましたね。

 

『彼女の煙が晴れるとき』

将棋好きの歌野さんらしい一作。これは完全に騙されてました。主人公が将棋

道場の仲間に隠れて煙草を吸ってる行動に嫌悪を覚えていたのだけど・・・ラスト、

まさかの事実が判明して、驚かされました。料理が出来合いのものを温めるだけ

になっちゃうのもそういう理由だったのか、と腑に落ちました。そりゃ、将棋道場の

仲間たちも止めようとするよなぁ・・・。でも、彼女をこんな境遇にして、ストレス

をかけた家族が一番悪い。それでも、少し光の見えるラストでほっとしました。

 

『花火大会』

3ページほどの掌編。これは多分、コロナ真っ只中のお話だから、こういう形に

なったんでしょうね。それでも、こういう時に繋がれる仲間がいるって心強い

んじゃないかな。