ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大崎梢/「配達あかずきん」/東京創元社刊

大崎梢さんの「配達あかずきん」。

杏子は、駅ビル6階の本屋『成風堂』に勤めている。お客から書名や著者名がわからない本
を尋ねられるのも日常茶飯事だ。そんなある日、近所に住む老人から頼まれたと中年の男性客
から探している本のリストを見せられた。そこに書かれているのは、意味不明の言葉の羅列。
老人の探している本とは一体何を指すのか。杏子は、同僚の多絵と供に、謎の解明に乗り出す
ことに――書店員の日常の謎を集めた連作短編集。

本書はずっと読みたいと切望していた作品。新しい図書館って、人気作品でもひょっこり
置いてあったりするから嬉しい。それにしても、う~ん、さすがミステリフロンティア。
面白い作品を出してくるなぁと感心しきり。
以前、森谷明子さんの「れんげ野原のまんなかで」でも触れましたが、本好きにとって図書館や
本屋といった、本がたくさん出てくる場所が舞台の作品というのは、それだけで無条件に
読みたくなるもの。今回は、書店員さんたちの日常の仕事がとてもリアリティたっぷりに
描かれていて、興味津々でした。もちろんそこに出てくる謎は本に纏わるもの。どの作品
もとても面白かったのですが、好きなのは「パンダは囁く」と表題作の「配達あかずきん」
かな。「パンダ~」は、暗号みたいな不思議な言葉を颯爽と解いてしまう多絵ちゃんが素敵。
「配達~」は展開が一番しっかりミステリしていて、犯人と被害者の関係も意外だったし
面白かった。ほんわかした博美ちゃんがいい味出してるし。ラストの犯人との対面シーンも
良かった。「六冊目のメッセージ」も好きですね。こんな出会いって理想って気がする。

とにかく、本屋さんが日々大変だということがよくわかりました。書店員というのは以前から
やってみたい職業の一つですが、体力も知識も勘も必要なんだと再認識させられました。
それでも、やっぱり楽しそう。巻末についている、書店員さんたちの座談会も非常に興味
深く読みました。お客さんもいろんな人がいるんですねぇ。それに一つ一つ出来る限り
誠実に応対する書店員さん。頭が下がります。いつも本屋さんには本当にお世話になっている
身ですから余計に。

私も大学では司書課程を取っていたので、書物の分類やレファレンスのことは勉強したの
ですが、レファレンス作業の、小さなヒントで目的の本を探し当てる課程が謎を解いて
いるみたいで非常に面白かった覚えがあります。書店員さんたちも同じですよね。漠然と
したヒントだけで目的の本を探してあげなければならないのですから。普段そんなことを
やり慣れていれば、謎解きが出来ても不思議はないですね(あれ、偏見?)。

読み終わって、すぐに「本屋に行きたい!」と思えるような作品です。
本好きな方はきっと楽しめますよ。すでに続編出版が決定しているようなので、今後も
楽しみなシリーズです。