ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

樋口有介/「ぼくと、ぼくらの夏」/文藝春秋刊

樋口有介さんのサントリーミステリ大賞読者賞受賞作「ぼくと、ぼくらの夏」。

高校2年の夏休みのある日、戸川春一は万年平刑事の父親から同級生の岩沢訓子が自殺したことを
告げられた。春一にとっては特別親しかった生徒でもなく、その時は大した感想も持たなかった。
しかしその日偶然街で出会ったクラスメイトの酒井麻子と供に成り行きで訓子の家に行ってみると、
担任の女教師・村岡が来ていた。訓子の自殺理由は不明だった。春一も、中学時代訓子と親しか
ったという麻子も自殺に疑問を覚え、この件を調べ始めるのだが。

この主人公・春一は高校生とは思えない達観した雰囲気があり、なんだか青春ミステリを
読んでいる気にはなれなかったというのが正直な所。ちょっと会話に詰まると煙草を吸い
始めるし、付き合っていた少女はあっさり切り捨てる。物事の考え方も、とても一介の
高校生とは思えない雰囲気。なんだか、ハードボイルドものを読んでいるといった方が
しっくり来るような・・・。ただ、父親やガールフレンドの麻子との会話など、非常にセンス
のある巧みさは感じました。語り口の軽妙さが、読みやすさに繋がっているのでしょうね。
ミステリとしてはさして目新しいものがある訳ではなく、犯人も予想外と言うほどでも
ないですが、高校生に起こったひと夏の事件を作者の巧みな会話などで魅力的に盛り立てて
いて、なかなか楽しめました。

18年前に出版された作品ということで、今の高校生が読むとちょっと違和感を覚えたり
する場面もあるのかもしれないけれど、私は自分の高校時代と重ね合わせて、非常に懐かしさ
を覚えました。しかも、舞台が地元なので余計に。昔のあの辺りってああだったなーなんて
思い返しながら読んでました。小説に自分の馴染みの土地が出て来るのは嬉しいですね。

ただ、高校生が普通に煙草を吸ったりビールを飲んだり、それを担任教師や刑事(父親)
咎めもせずにいる辺りの描写はどうかなぁと思いました。まぁ、その辺りは今も昔も
この年代の少年少女が普通にやることなのかもしれませんけど。中高生が煙草を吸ってる
のなんて、私のような人間からすると嫌悪感しか覚えないので。
それにしても、出て来る少女がみんな春一を好きになるのは何故なんでしょうね。何か
達観してる雰囲気が女性を惹きつけるのでしょうか。普通っぽいようでいて、結構不良
な所とか?私にはいまひとつ春一の魅力が伝わって来なかったのですけれどね。お父さんと
いる時が一番普通の少年ぽくて良かったかな。