ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

瀬尾まいこ/「卵の緒」/マガジンハウス刊

瀬尾まいこさんの「卵の緒」。

小学4年生になる育生は自分が捨て子ではないかと疑っている。父親がいないし、
母の自分に対する知識が驚く程あやふやなのだ。ある日青田先生から母と子を繋ぐ
証拠としてへその緒の話を聞いた。家に帰って母親にその話をすると、母が探し出して
来た小さな箱の中には、卵の殻が入っていた。母と子の愛情を巡るハートフルストーリー。
表題作他、書き下ろしの「7's blood」を収録。

2編が収録されていますが、基本的にはどちらも‘家族’の絆がテーマになっています。
「卵の緒」は血の繋がらない母と子、「7's blood」は血は繋がっているけれど、いきなり
家族になった姉と弟。でも、どちらもとても深い所で繋がっていて、それでいてべたべたした
愛情物語でもなく、瀬尾さん流のさらっとした人間関係が素敵だなぁと思える良作でした。
それぞれ分けてコメントします。

「卵の緒」
もう、お母さんの言葉がどれもとても素敵。へその緒の代わりに卵の殻を入れて見せる
なんて、なかなか出来ることじゃない。卵から生まれたなんて話を育生が信じるなんて、
このお母さんは多分微塵も思っていない筈です。それでも、「へその緒なんて捨てた」
とか「なくなった」とかでごまかすのではなく、ちゃんと育生への愛情を感じさせる
ような答えを用意する所がすごいな、と思いました。血なんか繋がってなくたって、
親子は親子!と断言しちゃうこのお母さんは何より強い母親なのでしょうね。育生が
また魅力的な子供ですね~。6年生になって母親から本当の父親の話を聞かされても
ちゃんとそれを受け止める賢さを持っている。子供がこんな風に育ったら親は嬉しい
し自慢でしょうね。池内君との関係も良かったですね。彼らは今後親友となって行く
のだろうな~。でも、池内君の登校拒否の理由は一体何だったんでしょう。それだけが
謎のままだったような・・・。まぁ、育生も育生の母親も、そんなこと些細なことだと
ばかりに気にしない所が素敵なのですけれど。


「7's blood」
物語としてどちらが好きか?と聞かれたら、こちらの方が好きかもしれないです。
複雑な環境で生まれ、要領よくいい子でいることを覚えた少年と、それを受け止められ
ない姉。二人が一緒に生活する中で、その関係が少しづつ変わって行く様がとても
すがすがしく、丁寧に描かれていて良かったです。特に、七生が七子に買った腐ったケーキを
食べるシーンは‘うわ~’と思いつつ、感動的でしたね。でも二人ともあの後お腹壊したの
でしょうね^^;そしてこの作品でも瀬尾さんお得意の素敵な少年が!今回のツボは島津君
でした~。いや~いいな、こんな少年。素敵すぎ。普段無口だけど、こちらが話しかけると
とても的確で丁寧な言葉を返してくる。野沢には悪いけど、きっとこの後七子は野沢と
別れて、島津君を好きになる気がするなー(上手く行くかはわかりませんが)。
ラストはとても切なかった。この姉弟にはずっと一緒にいてもらいたいのに。七生の母親の
状況を考えると、七生は今後とても辛い人生を歩んで行く筈です。その時に七子と過ごした
日々を思い返して強い少年に育って行くのでしょうね。いつか、また二人に接点が出来ると
いいのに。成長した七生と、大人になった七子のその後を読んでみたいですね。


瀬尾さんは、基本的に片親の作品が多く、いつも家族をテーマに物語を書かれるなぁと
思っていたら、瀬尾さんご自身が母子家庭に育ったというのが根底にあるのですね。
きっと幼い頃から家族の絆とは何なのかをずっと考え続けて来たのでしょうね。家族
の絆、人と人との絆が、普通の人よりもずっと大切でもろいものだと知っているの
かもしれません。今後も瀬尾さんなりの家族のあり方を書き続けて行って欲しいと思います。