ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

道尾秀介/ 「シャドウ」/東京創元社刊

道尾秀介さんの「シャドウ」。

母が癌でこの世を去った。小学5年生の凰介は、父洋一郎との二人暮らしが始まった。
その数日後、父の友人の水城の妻が、父の勤める医科大学の研究棟の屋上から飛び降り自殺
を遂げる。更に、その娘で凰介の幼馴染の亜紀が交通事故で怪我をしてしまう。自分の身近で
頻発する不可解な出来事。その驚愕の真相を知る時凰介は――。ミステリフロンティア
シリーズからの刊行。

やられました。素晴らしいミスリード。もう、真相は絶対これだろう!と思わせておいて、
完全に裏切られるあの爽快感。久しぶりに味わった気がします。ラストの真相を読んで、
作者が仕掛けた巧妙な伏線に気付きました。この作品にはとにかくたくさんのミスディレクション
のトラップがある。丁寧に読むと気付けるかもしれませんが、先入観を植え付けられた思考で
読み進んで行くと完全に違った方向に行ってしまう筈。そして私はまんまとそっちに
行っちゃいました・・・。想像通りだったら凡作だなぁと思って読んでたのに、やはり
道尾秀介、ただ者ではありません。今回はあまりホラーテイストは入っておらず、直球の
ミステリで勝負してきた、という感じです。小学5年生の凰介が経験するにはかなり大人の
生々しい事件で、ラストの真相も決して後味は良くありません。でも、その真相を知った
凰介の父親への態度が前向きで、なんだかとても救われた気持ちになりました。勘がするどく
子供にしては達観しているようでいて、ちゃんと父親への愛情を第一に考える凰介のキャラが
秀逸でした。凰介以外のキャラはみんなどこかで狂気を秘めたような危うい人物描写で、それが
作品全体に緊迫感を与えていてリーダビリティのある作品に仕上がっていたように思います。
ただ、父親が指で作ったL字のサインの意味が結局よくわからなかった。そこが唯一すっきりして
いません。終章を何度読み直しても謎解きらしき文がないのですが。私が読み逃しているのかな
ぁ。なんだか気持ちが悪い。せっかく綺麗なラストなのに、ちょっとすっきりしない印象なのが
残念。

道尾さんの作品はデビュー作の「背の目」、続く「向日葵の咲かない夏」と読んで本書で
3冊目。(実はこの間に出た「骸の爪」だけまだ読めていないのですが)一作ごとに確実に力を
つけているように感じますね。今後も追いかけて行きたい作家の一人です。