ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三羽省吾/「太陽がイッパイいっぱい」/新潮社刊

三羽省吾さんの「太陽がイッパイいっぱい」。

イズミは三流私立大学の4回生。しかし1年前に工事現場で働くようになってから、ほとんど
学校に行かなくなってしまった。一日肉体労働をして汗をかき腹を空かせ仕事終わりに上手い
ビールを飲むというシンプルな生活の魅力がイズミを学校から遠ざけているのだった。イズミが
働く中堅型枠解体業者「マルショウ解体」は総勢九名。マッチョ丸坊主系の巨漢・カン、
若武者のような黒く長い髪を束ね、整った顔立ちにも関わらず赤面症のクドウ、酔うと野球の
話しかしないイワタ、リストラされ妻に逃げられた子持ちのハカセ、そうした個性的な面々を
束ねる現場監督のマルヤマ親方。一癖も二癖もあるマルショウ解体のメンバーとイズミが大阪を
舞台に織り成す汗と笑いと涙のガテン系コミカルストーリー。

痛快!とにかくマルショウ解体のメンバーが生き生きしていて、読んでいてすかっとしました。
ここに出てくる男たちは、難しいことなんか考えないで、本能の赴くままに生きていて、悩んで
いるのがバカらしくなる位単純。激しい肉体労働をした後は立ち飲み屋で一杯ひっかけて、
ついでに女の子もひっかけて、ただガハハと大笑いして過ぎてゆく毎日。それでも日常の中で
ちょこちょこっと事件が起きて、一瞬不穏な空気が流れたりする。でもそんな空気も、深刻になる
よりも笑い飛ばして忘れてしまう潔さ。う~ん、気持ちいい位バカでかっこいい。彼女の顔を
傷つけられて後先考えずに報復しに行くカンがいい。ぼこぼこになっても向かって行く姿が
男らしい。子供の眼の病気の為にみんなのお金盗んじゃうハカセの行動はひどい。でも、それを
誰一人責めたりしない一人一人の温かさ。なんだか、少しづつ人が忘れて行ってしまう何かを
思いださせてくれるような、懐かしさと温かさを感じる作品でした。日雇い労働者の日常の
男くささ・下品さ・暑苦しさを全面に押し出しつつも、読んだ後は不思議と清清しい爽快感に
包まれました。面白かったです。

文章は独特のリズム感のようなものがあって、ちょっと舞城さんぽいな、と思いました。あそこ
まで破綻してはいないけど。彼らが行きつけの立ち飲み屋に住み着く犬の「ヨゴレ」がなんだか
とても好きでした。ヨゴレが吠えたというラストのエピソードにじーんとしちゃいました。
何故吠えたのかは全然分からないし、状況としては感動できる場面でもないんですけど、何だか
嬉しかった。きっとイズミも同じ気持ちだったのではないでしょうか。

男たちばかりがクローズアップされた小説ですが、出てくる女の子もかなり強烈でいい味出して
ます。特にメロンちゃんはいいですね。そして彼女の両親がまた素敵。美大なんかに通ってて
芸術家を目指してる割に、イズミたちのバカな行動にとことん付き合える心の広さはすごい。
カンの報復行動の時の女性3すくみもなんだか想像するとすごい図なんだけど、誰一人彼らの
行動を咎めたりしない所がいいですね。大阪の女性の強さとでも云うんでしょうか(偏見?)。

この方、広告代理店にお勤めしている勤め人なのですね!職業作家じゃないのに、ここまでの
筆力を持っているのはすごいと思います。コピーライターをしてるから、言葉のことをよく
知っているとも云えるのでしょうけど。
今後も注目したい作家に出会えました。beckさん、しろねこさん、ありがとうございました^^