蘇部健一さんの「長野・上越新幹線四時間三十分の壁」。
新潟市の7階建てのマンションで男が殺された。そばに落ちていた時計の針は7時30分を
指したまた止まっていた。一方長野駅から数分のとある路地裏で、後頭部から大量の血を流して
死んでいる男が発見された。それぞれの事件の容疑者は双子の美人姉妹。しかし姉妹どちらにも
アリバイがあった。事件を追う刑事・半下石は鉄壁のアリバイを崩せるのか。鉄道ミステリに
意欲的に挑んだ表題作他、コロンボに触発された倒叙ミステリの短編3本を収録。
えーーっと、時刻表ミステリです。って、題名見れば一目瞭然ですが。私が最も苦手とする
ミステリジャンルの一つなんですが、蘇部健一の名前に惹かれてつい手に取ってしまいました。
で、時刻表部分はやっぱり何が何やらって感じだったのですが、アリバイ崩しの為に半下石
刑事と山田刑事が実際犯行ルートを巡ってみるところなどはとても面白かった。実際やって
みなくてもわかりそうなものですけど・・・。突っ込み所が満載で本筋よりそっちの部分が
面白かったです(オイオイ)。
肝心のトリックについては残念ながら目新しいものではなく、鉄道ミステリを読みなれた方
が読んだら到底評価はしてもらえないかもしれません。
ただ、六とんよりはちゃんとした(?)ミステリを意識して書かれていましたよ。動機とか
すっとばしてても、アリバイ崩しの課程がなんとなく杜撰な印象でも、とにかく面白く
読めましたし(私は)。これはやっぱり半下石刑事が外見とは似合わずかなり天然なキャラ
だからかもしれません。山田刑事の突っ込みも笑えるし。幼い娘とのディズニーランドでの
エピソードが何ともほのぼのとしていて良かったですね。本文に必要なエピソードだったのかは
謎ですが・・・。
新幹線で旅行する際には是非お供にして頂きたい作品です。
・・・でも行きの車中で読みきったら、帰りには内容忘れてるかもしれない・・・(私だけ?)。
ミステリとしては同時収録の「指紋」の方が好みですね。でも、あのオチを持って来てこの
タイトルをつけるのはどうなんだろう?とも思いましたが。
でも実は、この作品で最も面白かったのはラストの大倉崇裕さんの解説だったかも・・・。
前回読んだ「動かぬ証拠」でも応援演説的な解説でしたが、今回もそれに輪をかけて
必死の援護射撃。いやいや、ほんとに可笑しい。でもねー、気持ちはわかります。
私もついつい「頑張れ、蘇部さん!」と応援したくなっちゃうんですよね。何故だろう?
本人のあとがきがあまりにも弱気だからかなぁ。
世間の風評なんぞ気にせず、この作風を是非貫いて行って欲しいと願います。
次は「木乃伊男」を探すぞー!(はまりすぎ^^;)