ミステリ読書録

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仁木英之/「僕僕先生」/新潮社刊

仁木英之さんの「僕僕先生」。

時は唐代。光州無隷県の県令を引退して以降、趣味で道術探求に励む父の命令で、
仙人の庵に供物を届けに行かされるはめになった王弁。仙人への供物を抱え山を登る
と、粗末な庵に辿り着いた。そこで出会ったのは、自らを僕僕と名乗る小柄な少女。
実は彼女が当の仙人だというのだ!美少女仙人に弟子入りした青年の冒険と成長と恋
を描いたキュートなファンタジックストーリー。第18回日本ファンタジーノベル大賞
大賞受賞作。


何度かあちこちの書評ブロガーさんの記事で見かけていたのと、本屋で見かけた表紙の
可愛らしさに惹かれて手に取ってみました。雰囲気から畠中さんの「しゃばけ」シリーズ
みたいな感じかな、と思ったのですが、ほのぼのした雰囲気は共通するものがありましたね。
とにかく仙人の僕僕がキュート!仙人といえばなが~い白髯で杖を持ったご老人、という
イメージがあり、実際僕僕もそういう姿になったりもするのですが、基本的には
愛らしい少女の姿。既存の‘仙人’のイメージを覆す作品でした。気まぐれで辛辣で、
神出鬼没な僕僕に、弟子の王弁は振り回されっぱなし。そんな二人のやりとりが可笑しくも
微笑ましくて癒されました。

二人が旅に出て様々な目に遭遇する下りは、まさに‘西遊記’を思い出しました。一番
面白かったのは王弁が愛馬の吉良と供に混沌に飲み込まれてしまうあたり。王弁の成長ぶりが
著しく、自分から困難を打開しようと奮闘する様が頼もしかったです。物語の始めでは
働かず、学ばず、放蕩を繰り返していたバカ息子(今で言うニートですね^^;)が、僕僕と
出会い、供に過ごすうちに少しづつ変わって行く様がとても良かった。

そして何よりドキドキしたのが、二人の恋模様。いや~、まさか仙人に弟子入りする話で、
恋愛に発展するとは思わなかったので、意外な展開にびっくりでした。つかず離れずの
微妙な距離の二人がもどかしく思いましたが、二人の関係(師匠と弟子)を考えると
これでいいのかな、とも思ったり。表面では上手くするりとかわす僕僕も、本当は王弁の
ことが愛おしくてならないのだというのが伝わってきて、なんだかドキドキしっぱなし。
それだけに僕僕が天界に帰らなければいけなくなるクライマックスは切なかった。でも、
ラストで救われました。とても読後感の良い作品でした。
情報によると続編もあるそうなので(刊行されているのかはわかりませんが)、二人の今後
がどうなるのか、楽しみにしていたいと思います。

一つ難を言えば、中国が舞台なので人の名前とか場所の名前とかの漢字が何度ルビを
振られても覚えられなかったことでしょうか・・・(ただ私の頭が弱いだけですが^^;)。

ほのぼのと優しい気持ちになれる素敵なファンタジーノベルでした。「西遊記」なんかの
冒険ものがお好きな方にもお薦めです。楽しい一冊でした。