小路幸也さんの「シー・ラブズ・ユー 東京バンドワゴン」。
下町の一角で老舗の古本屋< 東京バンドワゴン >を営む堀田家。4世代が同居して、今日も
おおわらわ。ある日、隣のアパートの学生が本を売りたいとやって来た。明治の頃に編纂された
百科辞典『古事類苑』の一揃いだったが、その中の一冊に奇妙な切り抜きがあった。一方併設
されたカフェの方では置き去りにされた赤ちゃんを巡って騒動が起きていた(「百科事典は
赤ちゃんとともに」)。下町の大家族・堀田家の四季を追った愛と感動の連作集。
前作からさほど間を空けずに続編が読めたのはとても嬉しい。こんなに早くまた堀田家の
面々に会えるとは!堀田家の中に流れる暖かい空気は相変わらず。頑固な勘一、ファンキーで
エキセントリックな我南人、そんな我南人の個性的な子供たち、藍子、紺、青、そのまた子供
たち・・・。そして、優しく穏やかにみんなを見守る語り手・サチさん。前回の雰囲気そのまま、
賑やかな堀田家の面々が健在で嬉しくなりました。前回同様、ミステリとしては弱いです。作者が
前回よりもミステリ色を濃くしようと狙ってなのか、殺人事件を絡めてきた割にそれがあまり
成功していない印象を受けました。ただ、このシリーズはミステリとしてというよりも
ホームドラマとして読むべき作品だと思っているので、無理矢理物騒な話を持ち込まなくても
いいのになぁと思ってしまいました。敢えて殺人事件まで登場させるのであれば、もう少し
物語に上手く融和させて欲しかった所(ラストの強盗未遂事件だけ浮いている感じがした
ので)。
でも、一家族のホームドラマとしては、文句のない大団円でした。新たな命が誕生して(同時に
二人も!)、長らく亡くなっていたと思われていた人物が生きて健在だったと判明して、新たに
幸せになって旅立って行ったカップルがあって。ひねくれ者としては、ここまで上手く行く
かなぁと思わないでもないけれど、堀田家にはこういう終わり方がやっぱり似合う。大家族
における、自分の位置を一人ひとりが弁えているから上手く行くのでしょうね。こんなに
温かくて濃い人間関係の中で育ったから、花陽や研人はのびやかな性格になったのでしょうね。
多少のことでは動じない人ばかりですから^^;
マードックさんと藍子さんの結末をきっちりつけてくれたのも嬉しかったです。前回から二人
の今後が気になっていたので・・・。藤島さんもとっても素敵な人物だけど、やっぱり藍子
さんのお相手はマードックさんでなきゃ!しかし、マードックさんのご両親にはびっくり。
日本びいきなら、ちょっと位日本観光してから帰国しても良かったのでは??飛行機代勿体
ないなぁ(←セコい)。
今の少子化時代には希少価値とも云える大家族の堀田家。昔の時代の家族の有り方ってこう
だったのかな、と思わせてくれます。堀田家にはいろんな問題が持ち込まれてくるけれど、
家族一人一人の大らかさであっさりと事件を解決してしまうところがいいですね。そして
そこにはいつも人と人との繋がりの温かさがある。下町らしい、人情味溢れる彼らの性格は
読んでいて爽快です。堀田家の面々に惹かれてたくさんの人が入り浸るのもよくわかりますね。
私もこういう場所があったらきっと居心地がよくて居ついてしまうだろうな^^;だって
古本屋だし、カフェまで併設されてる上に、素敵な店員(店主)さんたちがわんさといるんですよ!
ああ、家の近くに< 東京バンドワゴン > が出来ないかなぁ。
新しい命がやって来た堀田家。まだまだ目が離せませんね。続編を首を長くして待ちたいと
思います。