ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

芦原すなお/「カワセミの森で」/理論社刊

芦原すなおさんの「カワセミの森で」。

わたしこと桑原ミラは真面目に陸上に打ち込む高校二年生にして、エドガー・アラン・ポオが
好きな文学少女である。これはわたしが16歳の時に経験した忌まわしい連続殺人事件の顛末
である。ことのはじまりは、わたしが通う英腺女子高に、近所のライバル校・聖ベロニカ女子高
からある一人の女生徒が転校してきたことである。彼女はイギリスの初夏の麗かなる日のように
美しい少女であった。彼女の名前は深山サギリ。深山財閥のご令嬢である。サギリはなぜか
わたしに近づき、わたしと友達になるべく転校してきたなどとのたまった。しかるべくして
親友になったわたしたちだが、夏休みにお金持ちのサギリの家が所有するあのカワセミの森の
別荘に招待され、あの凄惨な事件を経験することになるのだ――理論社ミステリYA!シリーズ。


いや~、これは面白かった。なんと云っても、主人公ミラの人物造詣が最高。女の子なのに
植木屋刈りとはこれいかに!(笑)相手に合わせてしゃべり口調が移ってしまうとことか
いちいち可笑しい。そのくせポーに傾倒し、変に文学通で大人びた物言いをしたり、会話の
ポイントがずれてたりするとこもまた笑える。陰惨な事件が起きるのは物語の後半も大分過ぎた
辺りからなので、事件が起きるまでは完全にユーモア・ミステリなのかと思いました。しかし、
事件はしっかり見立て殺人を盛り込んだ本格テイスト。怒涛のごとく短時間(短ページ)で死体が
次々出て来て、呆気に取られること請け合い(なんじゃそりゃ)。
そこまでの人物描写や会話文などの滑稽さが一気に払拭されていきなり本格ミステリになるので、
ちょっと面喰らう人もいるかも。そういえば「ミミズクとオリーブ」シリーズもほのぼの
路線なのに扱っている事件は陰惨な殺人事件だったりしてたから、芦原さんらしいとも
言えるのかな、とも思いましたが。

サギリの家の人間たちとミラとの会話が愉しかっただけに、クライマックスのあの展開には
少し裏切られた感がないこともなかったです。弐子さんや宵さんとミラのふれあいはほの
ぼのしていて良かったので・・・まぁ、そこがミステリなんだといわれてしまえばそれまで
ですがね。ということは、ミステリとしては成功しているということなのぢゃ・・・って
ミラって時々こういうしゃべり方するんです。ほんとに女子高生か!?と突っ込みたくなる
部分が満載。ミラの親父キャラがこの作品を一人で引っ張っている感じでした。

ネーミングセンスの面白さ、人物造詣の奇抜さ、会話文の面白さ。どれを取っても愉しい
芦原ワールドに引きこまれました。読んでいて、この魅力的な奇矯さは、桜庭さんの世界
に似ていると思いました。最近こういう作風が流行りなのかな??



※ 以下、ネタバレあります。未読の方はご注意を。











ただ、腑に落ちない部分がない訳ではない。一番気になったのはリンのこと。彼女が
殺されたのは何故?サギリの血縁でもないし、単なる友達なのに。犯行を目撃してしまった
とかの理由も書かれていないのでただ巻き添えで殺されてしまったということ?その辺り
の説明までちゃんとして欲しかった。
あと、解決部分の直前で出て来た空口先生のくだり。とても思わせぶりな書き方をしている
のに、結局事件とはあまり関係なかったので肩透かし。一体何故突然出てきたんだろう?
ミラにも心を惹かれてる男性がいたという挿話を入れたかったのかな~^^;




ミステリとしては完全にすっきりしたという訳ではなかったけれど、愉しい芦原ワールド
(というより、この作品に関してはミラワールドかな)にどっぷり浸れました。
面白かった!やっぱり芦原さんはいいですねぇ。
本書に出て来たミラちゃんの初出は「山桃寺まえみち」という作品だそう。こりゃ、早く
探して読まなければ!!タイトルからしてミラワールドという感じがするじゃないですか。
大学生のミラちゃんがどんな活躍をしているのか、楽しみ楽しみ。

あとがきで芦原さん、スランプ(!)だなどとおっしゃってますが、いやいや、こんな楽しい
作品書けちゃうなら全然スランプじゃないじゃないですか。もっといっぱい書いて欲しいです。
頑張れ、芦原さん。