ミステリ読書録

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石持浅海/「人柱はミイラと出会う」/新潮社刊

石持浅海さんの「人柱はミイラと出会う」。

アメリカのポートランド出身の留学生、リリー・メイスは、奇妙な日本の風習を目にする。ビルや
橋などの巨大な建築物を建てる時、土地の神様を鎮める為に人間を生きたまま閉じ込めるという
のだ。彼らは「人柱」と呼ばれ、日本では確立された職業なのだという。リリーはホームステイ
先の娘であり友人の慶子を通じて、人柱職人をしている従弟の東郷と出会う。リリーは東郷の
勧めで、あるマンションが人柱の帰還式をするというので見物に行った。すると、部屋から
いるはずの人柱がいなくなっており、代わりに寝袋に入ったミイラが発見された――(「人柱は
ミイラと出会う」)。黒衣、お歯黒、厄年、参勤交代――日本の伝統的な風習が「当たり前のこと」
としてまかり通る中で起きる奇妙な事件を人柱職人・東郷が鮮やかに解決する連作ミステリ。


久々に石持さんです。この方の作品は合う合わないの差が激しいことが多いのですが、本書は
なかなか楽しめました。現代日本においてはほぼ廃れてしまった風習が当たり前のこととして
受け入れられているという設定が面白いです。「そんなバカな」と思いつつも、こういう世界
も面白いな、と思わせてくれました。のっけから「人柱職人」ですからねぇ。人柱を職業として
捉えた所がユニーク。人柱職人・東郷のキャラも良かったですね。普段は透明な空気を纏って
いるのに、何かしらの感情が芽生えた時だけ色がつく。飄々としていて掴み所のない人だけど、
実はすごく情に篤い人なのかな、と思いました。リリーとの恋愛模様はもう少し丁寧に書いて
欲しかった所。最終話の中だけでの急展開なのがちょっと残念でした。東郷がリリーのことを
どう思っているのかほとんど出てこないままああいう結末を迎えるので、なんとなく納得
いかない部分も・・・。まぁ、二人の恋愛にきちんと決着をつける辺りは石持さんらしいというか、
あくまでもこの一冊で完結させたいという意志の表れなんだろうな、と思いましたが。

謎解きはややこじつけっぽく感じるものが多かった。非現実を現実として捉える作品なので
多少は仕方ないかな、とも思いますが。面白かったのは表題作とお歯黒のやつかな。既婚女性
はお歯黒をするのが普通、というとんでもない設定がなかなかはまっていたように思います。
逆に、厄年や黒衣はやや苦しいかな。鷹匠は動機がどうにも・・・。

日本に古くからある伝統や風習を現代日本に鮮やかに蘇らせた面白い趣向のミステリでした。
これは設定勝ちって感じだなー。多少ロジックに無理があっても読ませてしまうもの。石持
さんがこういう作品を書くとは思わなかったです。続編は出ないでしょうが、こういうユーモア
ミステリはもっと書いて欲しいですね。


そういえば最近日本のパラレルワールドを舞台にした作品をよく読んでるなぁ・・・。