ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

井上夢人/「もつれっぱなし」/文春文庫刊

井上夢人さんの「もつれっぱなし」。

「あたしね、宇宙人、見つけたの」・・・『宇宙人の証明』
「あたし、孫なんです」・・・『四十四年後の証明』
「あたし、殺したの」・・・『呪いの証明』
「オレ、狼男なんだ」・・・『狼男の証明』
「あたしね、死んじゃったみたいなの」・・・『幽霊の証明』
「あたし、万引きなんてやってない」・・・『嘘の証明』

なにげなく始まった会話がもつれにもつれて意外な方向に・・・一組の男女が繰り広げる
「会話」だけで構成されたユーモア小説。


全ての話が会話だけで構成されている戯曲風小説。なかなか面白い趣向ですね。会話だけ
なので読みやすいし、わかりやすい。どの男女の会話もかみ合っているようでかみ合って
ないのに、それでも最後にはきちんと収まるところに収まるところがなかなか巧い。題名
でわかるように、どの作品でも何かを‘証明’しようと会話が繰り広げられるのだけど、
結局どの話の結末も証明できたとはいえません。でも、証明できたかどうかはあまり問題
ではなく、二人の会話がどうもつれて行くのかを楽しむ作品なのでしょうね。



それぞれの短評を。

「宇宙人の証明」
宇宙人が○○○○!彼女が真剣なのが可笑しい。○○○○からテレパシー送られても、
私だったら見て見ぬフリして通りすぎます・・・。

「四十四年後の証明」
少し前に読んだ松尾由美さんの小説(「九月の恋と出会うまで」)を思い出しました。
ラストの別れが少し切ないけど、いい話です。

「呪いの証明」
呪いかどうかの証明の結果が一番はっきりしてるのはこれかもしれません。一番ミステリ色が
強いかな。

「狼男の証明」
結局コンサートはやったんでしょうねぇ。満月の夜は何かが起きる・・・。

「幽霊の証明」
これもミステリ的な仕掛けのある作品ですね。ラスト1ページの男の台詞でこの男の真価が
わかります・・・セコい。

「嘘の証明」
真面目で熱心な先生が万引きの疑いをかけられた女子生徒の無実を信じるちょっといい話・・・
だと思ったのに、このオチは何だー!!がっくり。


何気ない一言から、どんな風に会話がもつれて意外な結末を向かえるのか。軽妙な会話に
引きこまれました。
肩の力を抜いて楽しめる一冊です。