ミステリ読書録

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はやみねかおる/「少年探偵虹北恭助の冒険 フランス陽炎村事件」/講談社ノベルス刊

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はやみねかおるさんの「少年探偵虹北恭助の冒険 フランス陽炎村事件」。

わたし、野村響子、高校一年生。幼馴染の虹北恭助が最後の事件を解決して旅立ってから約三年半が
過ぎた。お正月にはたまに帰って来ていたのに、中学三年の冬を最後にぱったりと帰って来なく
なった。夏休みが終わった頃、フランスにいるという葉書が届いたっきり。そして、季節はもう
冬。恭助の祖父の元に届いた手紙には、恭助が現在フランスの陽炎村というところにいて、
ややこしい事件に巻き込まれているという。きっと困ってる筈!わたしが行って助けてあげなきゃ!
恋する乙女は行動力あるのみ。でも、フランスは遠い。そして、旅費が高い。と、思ったら、
虹北商店街歳末大売り出しの福引案内には『特等!フランス・パリ六日間の旅』の文字が!
これはなんとしてでも特等を引くっきゃない!紆余曲折の末、恭助のいる陽炎村に辿りついた
わたしは、そこで村に伝わる亡霊に悩まされる羽目に――シリーズ完結編。


出てから5年も経って今年の4月に読んだばかりの前作虹北恭助のハイスクール☆アドベンチャー
の中で触れられていたフランス編。本当に出るのかなぁと思っていたら、本当に出ました(笑)。
いや~、期待に違わぬ楽しい作品でした~。響子ちゃんの冷静なツッコミは今回も冴えわたって
素敵。そして、商店街の映画好きのズッコケ三人組も相変わらずやらかしてくれていて、楽しい
楽しい。響子ちゃんが福引で特賞を当ててフランスに行けることになるくだりなんて、なんとも
強引な展開でご都合主義的に感じられなくもないけど、このシリーズなら許せちゃうのです。
それに、ちゃんと最後に福引についての本当のからくりが明らかにされて、なるほどねぇ、と
思わせてくれる辺りはさすがです。

フランスに行ってからは、村に伝わる亡霊やら不可思議な出来事のせいで、少々トーンが暗めに
なり、シリアスになりますが、村に現れた伝説のムスティックの正体にはあまりのこのシリーズ
らしいオチに笑ってしまいました。他の作品だったら憤るところかもしれませんが、このシリーズ
だからこそ許される完全脱力系のオチが素晴らしいです。途中でどんなにシリアスな状況に陥ろう
とも、最後には絶対笑いと明るさで終わってくれる。いつでも爽快な読後感を味わわせてくれる
はやみね作品が大好きなのです。

恭助は小学校中退という、ジュブナイル作としては衝撃の経歴を持つ少年だけれど、学校に
行けなくても、人と関わりを持つのが苦手でも、陽炎村の人々に冷たい態度を取られ、迫害
されそうになる響子ちゃんを守ろうとする姿は、立派なナイトでした。
恭助が響子ちゃんに言った『どこにいても、響子ちゃんには、ずっと一緒にいてほしい』
のセリフにはどきどきしちゃいました。シリーズを通して、つかず離れずの二人の恋にはほんと、
いつもどきどき、にまにまって感じでした(笑)。

今回、一番好きな場面は、響子ちゃんと恭助がお城から逃げ出す緊迫した場面で、響子ちゃんが
言い放った『キュウソって何?急須の妖怪?』に対して恭助が返す『救いは、響子ちゃんの
天真爛漫さだね』のくだり。この場面で急須の妖怪が出て来る響子ちゃん最高です。そして、
それを愛おしく感じていることがわかる恭助のセリフに嬉しくなっちゃいました。

シリーズもこれで完結かと思うと、感慨深いですが、とても寂しいです。もっともっと
書いて欲しいのになぁ。巧ノ介と恭助の対決だってちゃんと見たいし、響子ちゃんとの恋が
どうなるのかだって気になるし。まぁ、当然の如くにハッピーエンドではあるでしょうけれど。
いつかまた、どっかで恭助たちに会えることを信じて待っていよう。虹北商店街はいつまでも
健在でしょうからね^^