ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

はやみねかおる/「ぼくらの先生!」/講談社刊

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はやみねかおるさんの「ぼくらの先生!」。

四十年近く小学校の先生を勤めた後、定年退職して十年。いろんな学校でいろんな生徒と出会った
けれど、それを妻に話したことはなかった。それは、学校関係者でない妻に、仕事の話をするべき
ではないと思っていたし、仕事の苦労を持ち込み、妻にわずらわしい思いをさせたくなかったから。
けれども、妻はずっとわたしが話すのを待ってくれていた。そして、私は少しづつ過去に起きた
いろんな学校での子供たちとの出来事を妻に話し始めた。妻はそれを優しく嬉しそうに聞いている。
そして、わたしが解けなかった謎を鮮やかに解き明かしてくれるのだ――。優しく温かい目線で
語られる、教師と子供たちの日常の謎を描いた連作ミステリー。


はやみねさんの新刊。退職した元教師の『わたし』が語る過去の出来事を聞いて、聡明な奥さんが
謎を解き明かす連作集。設定が芦原すなおさんのミミズクとオリーブシリーズを彷彿とさせますね。
講談社から出てるし、ミステリーランドで出しても良さそうな作品(ミステリーランドではありませんが)。
大人が視点なのでジュヴナイルと言っていいのかわかりませんが、とってもはやみねさん
らしくて素敵な作品です。字も大きいし、ページ数も少ないので一時間ちょっとで読めてしまう
けれども、どの作品も優しさが沁みだしてくるようで、温かい読後感に包まれます。それに、
ミステリとしてもちゃんと読ませ所は心得ているところがはやみねさん。特に四話の『肝だめしの
夜』なんか、細かく伏線が張られていて、謎解きを読んで感心してしまいました。個人的に好き
だったのは三話目の『先生には見えないこと』。ずっと昔の教え子(しかも当時小学生)に嫉妬
する奥さんがとっても可愛らしい。この作品の何がいいって、『わたし』と奥さんの夫婦関係。
お互いにお互いを想い合っているし、なんだかこっちが照れてしまうくらい信頼し合っていて、
素敵な関係なのです。齢をとって、こんな風な夫婦関係が築かれるって本当に理想だと思う。特に、
奥さんが『わたし』のことが大好きなのが言葉のはしばしから伝わって来て、それだけでもなんだか
嬉しい気持ちになってしまいます。教師時代の『わたし』は仕事のことを妻にほとんど話すことが
なく、仕事一筋であまり家庭を顧みなかったと反省するのですが、妻はそんな『わたし』の気持ち
は充分理解していて、温かく見守ってきたことがわかります。もちろん、寂しい気持ちもあった
でしょう。それだけに、退職した今、ようやく過去の出来事を話してもらえるのが嬉しくて仕方が
ないのです。『わたし』が語る過去の学校での出来事を、奥さんはにこにこしながら聞くのです。
でも、話は一言一句聞き漏らさず、『わたし』が解けなかった謎もあっという間に真相に辿り
ついてしまう聡明さを持っています。本当に素敵な女性です。こんな風に齢をとりたいなぁ。

エピローグでの『わたし』の決断と、それを受け入れる奥さんがまた素敵なんですよ~。
この二人のもとで勉強できたらどんなに楽しいだろうなぁって思います。私も参加したい。
奥さんのことばかり書いてしまいましたが、『わたし』の子供たちに対する優しい目線もとても
素敵なのです。教師時代は生徒の気持ちがわからなかったと反省したりしているのですが、
『わたし』が語るエピソードから、生徒たちは『わたし』のことが大好きだったことが充分伺えます。
退職して教師の職を離れても、かつての教え子たちから葉書や同窓会のお誘いがまめに来る
ことからも、それは明らかだと思います。

はやみねさんらしくて、とっても温かくて素敵なミステリーです。はやみねファンならば是非
読んで欲しい良作。読み終えて、優しい気持ちに包まれました。大人から子供まで幅広く
読まれて欲しいですね。