ミステリ読書録

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三田完/「俳風三麗花」/文藝春秋刊

三田完さんの「俳風三麗花」。

昭和7年7月、秋野暮愁が主催する暮愁庵句会に教授の娘阿藤ちゑ、医学生の池内壽子、浅草芸者
の松太郎、計三名の女性が参加することに。情緒溢れる俳句と供に、句会を通して育まれる三人
三様の友情と恋を描いた連作短編集。第137回直木賞候補作。


りあむさんの記事で気になっていた直木賞候補作。俳句は未知の世界ですが、なんだか
面白そうだったので手に取ってみました。いやー、大当たり。これ、ほんとに面白かった。
昭和初期という時代設定と俳句の世界がぴったりと合っていて、なんとも情緒溢れる作品。
主役となる三人の女性のキャラが実に良い。おっとりお嬢さんのちゑさん、モダンガール風の
壽子さん、ちゃきちゃき江戸っ子芸者の松太郎さん。三人とも全く違う性格なのにちゃんと
お互いを認め合って友情を深め合って行く課程に好感が持てました。それぞれの恋模様も
三者三様で面白かった。誰の恋も上手くいかないけれど。中でもやっぱりちゑさんの恋が
一番切なかった。
たった五七五の十七文字という短い文章の中にいろんな想いが込められて、ラブレターを
書くよりもずっと相手に伝わることがあるというのは、私のように歌心のない人間には
到底想像できないことでした。ちゑさんの想いはきっと想い人に伝わると思っていたので、
あの結末は切なかったです。相手もにくからず想っていると思っていたのになぁ。現代
であれば上手くいっていた恋だったのかもしれません。
意外だったのは壽子さんの恋。恋文の文面だけであそこまで自分の感情を燃え上がらせる
ことが出来るというのもすごいです。しかも相手の正体も勝手に妄想して盛り上がってる辺り、
かなり思い込みの激しい人間なのかも(苦笑)。結局恋文の相手は「冬薔薇」の最後に出て来た
人物だったということなんでしょうね。うーむ、ご愁傷様というしかありません(苦笑)。

句会で出て来る俳句に関しては、どれがいいとか悪いとかはさっぱり私にはわからなかった
のですが(汗)、各人の選評を読んでいると、「なるほど~」と頷けるものがありました。
私みたいな素人からすると、全部が良い俳句に思えてしまうのですが、いろいろ奥が
深いことがわかりました。自分にも歌心があれば、是非やってみたい所ですが、残念ながら
その手の才能は一切持ち合わせていないのが悲しい^^;


全体に漂うおっとりとした昭和の空気がとても良かった。俳句という未知の世界の魅力を
十二分に伝えてくれる良作でした。毎月行われる句会の様子が丁寧に描かれていて、
毎回同じような進行なのに、お題によって全く違う句が生み出されて行くところがとても
面白かった。これを直木賞候補にした人の選択眼は素晴らしい。残念ながら受賞は逃した
けれど、十分受賞に値する作品だと思います。文章も非常に丁寧で端麗。日本語の良さを
感じさせてくれる筆致に魅せられました。
候補作の中では一番地味な位の作品ですが、是非多くの人の読まれて欲しい良作です。