ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三浦しをん/「まほろ駅前多田便利軒」/文藝春秋刊

三浦しをんさんの「まほろ駅前多田便利軒」。

東京のはずれに位置するまほろ市で一人便利屋を営む多田啓介。12月の終わりのある日、
中年女性の依頼人から年明け4日までチワワを預かって欲しいと頼まれる。引き受けた多田
は、チワワの世話で追われていた。そんな中、多田は高校時代の同級生・行天春彦と再会
する。行く当てのない行天はなぜか多田の家の居候となり、多田の仕事を手伝うことに
・・・多田と行天コンビが街のトラブルを解決する痛快小説。第135回直木賞受賞作。


三浦さんの直木賞受賞作。読みたいとは思っていましたが、まだまだ予約が多いのだろうな
と思っていたら、普通に開架に置いてあってびっくり。予約はひとまず落ち着いたのですね。

なかなかの良作でした。飄々とした多田の元に転がり込んで来る奇妙な男・行天。奇妙な言動
を繰り返し、勝手気ままに生きる行天のキャラが非常に良い。そんな破天荒な男を口では
文句言いつつもなんだかんだで面倒みちゃう多田の変に生真面目なキャラも良い。二人の
コンビはかみ合っていないようでかみ合っているような、微妙な友情関係の描き方が
とても上手いです。キャラもストーリーもいかにも漫画的で、直木賞と言われるとどうなのかな
とも思いますが、エンタメ作品としては充分面白く読めました。二人の過去はそれぞれに
重いものを抱えていて、親と子について考えさせられる面もありました。多田は過去に
目をつぶって生きて来たけれど、行天と出会ったことで彼なりに過去と向き合えたことは
良かったことだと思う。北村との出会いも大きかったと思いますが。血が繋がっているとか
いないとか関係なく、親子は親子。血が繋がっていても由良のように冷たい親子関係も
あれば、北村のように血が繋がっていなくても心で繋がっている親子もいる。いろんな
親子の形があって、愛を受けたり与え合ったりしているんだと気付かされます。

多田は小学生の由良に冷たい現実を突きつけます。

「いくら期待しても、おまえの親が、おまえの望む形で愛してくれることはないだろう」

けれども、彼はこう続けます。

「だけど、まだだれかを愛するチャンスはある。与えられなかったものを、今度はちゃんと
望んだ形で、おまえは新しくだれかに与えることができるんだ。そのチャンスは残されてる」

この時はまだ多田は過去に蓋をしたままなのだけれど、彼の過去の過ちがあるからこそ、
この言葉が重みを持って生きてくる。これは彼自身が自分に向けた言葉でもあったのでしょう。
行天と同じように「いいこと言うなぁ」と思いました。多田はやっぱりとても優しい人ですよね。

好きなのはチワワに振り回される二人のシーン。なんだかんだ言いながら可愛がってるところが
微笑ましかった。脇役キャラを次の話でも登場させてくれる辺り、坂木作品にちょっと雰囲気
似てるな、と思いました。

ラストはお約束の展開でしたが、それがやっぱり嬉しかったですね。多田と行天、二人には
これからも一緒にいて欲しいから。なんて書くと、ちょっと誤解されそうな関係に思えて
しまいますが(三浦さんだし・・・実は狙っていたりして!?)。
各話の扉絵がまたそれらしいイラストなんだよね~^^;同人誌とか出てそうだ(苦笑)。
映像化もしやすそうなんで、そのうちドラマとか映画にもなるかもしれないですね。

三浦さんの作品は三作目ですが、なかなか相性が良いかも。これからも注目して行きたいです。