ミステリ読書録

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三田村四郎/「嘘神」/角川ホラー文庫刊

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三田村四郎さんの「嘘神」。

ある朝目覚めると、コーイチ、ユミ、ダイチ、ミカ、ヤス、カスミの仲良し6人は、出口のない
密閉された部屋に閉じ込められていた。戸惑う6人をよそに、「嘘神」と名乗る声が、非常な
ゲームの開始を告げる。ルールは7つ。生き残った者がこの部屋を出て元の世界に戻れると言う。
与えられた水と食料はわずか。しかも、中には毒が入っているものがある可能性がある。安全な
水と食料はどれなのか。疑心暗鬼にかられた6人の間で、次第に生き残りを賭けた駆け引きが
始まった。最後に残るのは誰なのか――第16回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。


大賞、短編賞と読んだので、ついでにこちらも、と手に取ってみました。普段そんなに
この賞の作品を読むことはないのだけど、なんとなく今回は全作制覇してしまいました^^;
始めはどこぞで読んだ覚えがあるような、ありきたりなゼロサムゲームの設定とそれぞれの
キャラの人間性の悪さに辟易しながら読んでいたのですが、個々のキャラの過去に起きた
大切な人との死別のエピソードを描くことで、現在の6人の人間関係にも深みを持たせ、
緊迫した状況の中で繰り広げられる人間ドラマを面白いものにさせているところがなかなか
巧いな、と思いました。ただ、そのエピソードの分、緊迫したゼロサムゲームの雰囲気を
間延びさせ、全体的な冗長さ、テンポの悪さに繋がってしまっている点も否めません。
その辺は痛し痒しってところでしょうか。ただ、そのエピソードがなければ単なる無機質な
殺人ゲームになってしまい、大した印象にも残らない凡作になりかねなかったと思うので、
個人的には評価したいところです。

終盤で、生き残りの人物と嘘神の会話によって、いろんな伏線が仕掛けられていたことが
わかり、なかなか良く考えられた作品だな、と思いましたが、ピンクの紙に関しては最初の
段階で気づいていたので、やっぱりそうだったか、という感じでした。むしろ、なんで
彼らがその事に気づいて試してみないのか不思議に思ったくらい。『○○○実験』の部分は
完全に読み落としてましたが・・・。

ただ、いろいろとツッコミ所も多いです。そもそも、仲良しの6人すべてが過去に同じような
辛い経験をしていたという辺りからして、ご都合主義すぎる。そういう経験をした者が集め
られる、という設定ならわかるのですが。全員が顔見知りってのは偶然が過ぎるでしょう。
確かに、もともと交友関係がないと嘘神の意図した実験は出来ないのだけれど・・・。
嘘神自身についても、一応ラストで何者かが明かされてはいるのですが、どうも説明不足で
腑に落ちない。結局、いろんな大義名分をごちゃごちゃと言い訳しているけれど、つまるところ
自分の○○○を探したかったって、それだけかよ!みたいな。しかも、ラスト一行で読後感を
最悪の所まで落としてくれるし。まぁ、ホラー小説なのだから、その前の爽やかなラストで
終わるのも消化不良だった気はしますけど・・・ラスト一行のこの言葉を吐く人物の人物造形が
最悪だっただけに、なんとも嫌な気分を植え付けるフィニッシング・ストロークのエンディング
でした。この人物視点の内面描写は本当に読んでいて気が滅入りました。人間性悪説をそのまま
体現したような人物造形で、自分勝手な思考回路は全く理解不能でした。特に途中の○○シーン。
ほんとに、そこまでやるとは・・・吐き気がしました。ここまで嫌な気分を催させるキャラが
作れるのもある意味作者の才能の一つなのかもしれません。


瑕疵も多いけれど、一気読みさせる筆力は大したものだと思いました。作者はまだ大学生
なのだそうだから驚きです。第二作にも期待したいですね。