ミステリ読書録

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佐藤多佳子/「一瞬の風になれ 1(イチニツイテ)」/講談社刊

佐藤多佳子さんの「一瞬の風になれ 1(イチニツイテ)」。

天才的なサッカープレーヤーの兄を持ち、自身もサッカーに打ち込んでいた中学生の神谷新二。
しかし、自らの才能に限界を感じ、家族の期待をよそにサッカーとは無縁の春野台高校に進学した。
同じ学校に通うことになった幼馴染の一ノ瀬連は、天才的なスプリンターとして陸上界に名を馳せて
いたにも関わらず、陸上をやめていた。連の才能を無駄にしたくない新二は、彼に陸上部に入部する
ことを勧める。連から返って来た答えは「新二も走る?」。陸上にかける少年たちの姿をストレート
に描いた傑作青春小説。


やっと読めました~。2007年度の本屋大賞受賞作。といっても、まだ1巻だけなんですが。
できれば3冊通した感想を書きたいところなのですが、2巻が回って来るのは当分先、3巻は
その更に先なので、とりあえず読了した分だけ。記事を書いておかないと忘れちゃいそうなので^^;

本当にストレートな青春小説です。う~ん、爽やか!!語り手である主人公・新二の心情が
ダイレクトに伝わって来て、彼の心の動きに合わせて一喜一憂。いやぁ、この新二がとっても
いい子。天才の兄や友人を持ちながら、その才能をちょっぴり妬みながらもきちんと認めて
相手を敬うところが偉い。自分にはないものを持つ人間が近くにいるって、やっぱり辛いと思う。
自分がどれだけ足掻いても、そこに辿り着くことができないとわかった時の挫折感。
そんなものを感じる人間が身近に二人もいたら、普通はもっと卑屈になったりする気がするけど、
新二はそうじゃない。兄ばかりを贔屓する両親に対しても「それが当然だ」と受け入れるし、
自分の才能をおざなりにする連には勿体無いと腹を立てる。出来る人がやらないでいることの
方に怒りを感じるというのは、やっぱり真っ直ぐで良い子の証だと思う。サッカーに打ち込んで
いた新二が、陸上という競技を知り、一秒の何秒の一のタイムの世界を経験することで、
走ることに少しづつ惹かれて行く様子がとても丁寧に描かれています。特に、リレーの場面では、
連とのバトンの受け渡しの微妙な感覚がリアルで情景が浮かんで来ました。やはり佐藤さんは
文章力が素晴らしい。

だからこそ、私も新二と同じように連のいい加減さに腹が立ちました。連は確かにすごい
スプリンターなのかもしれないけど、1巻のこの時点では全然いい印象がなかった。多分
これから魅力を発揮していくのでしょうけど・・・。練習嫌いで監督の言うこと聞かないし、
子供みたいに食事は残すし、練習がハードで合宿所から抜け出すし、好きな女が出来た
からって海外に行ったまま競技会もすっぽかすし・・・いや、これだけ書き出してみても
最低最悪の人間に思えるな^^;でも、新二のように、どこか庇護欲に駆られる所があるのも
わかるんですよね。なんといっても、新二の才能を認めている所はエライ!と思いますし。
それに、綺麗で完璧な走りをする姿はやっぱり感動的なんだろうな。次巻以降の活躍に
期待しよう。

とにかく、噂通り直球の清清しい青春小説でした。1巻ではまだ新二の走りもひよっこで、
タイトル通り‘位置についた’所。これから本格的に練習を積んで、どんな素敵なスプリンター
になるのか今からワクワクします。リレーでの連や他の仲間との一体感なんかも楽しみ。
ああ~~なんで三冊分冊なのっ。早く続きが読みたいです~。
今日古本屋に行ったら三冊まとめて2100円で売っていて、1巻読んだばかりだったのに
買いそうになってしまった・・・。早く2巻回ってこーい!