ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

島田荘司/「異邦の騎士」/講談社文庫刊

島田荘司さんの「異邦の騎士」。

目が覚めてみると、男は以前の記憶を全く失っていた。自分が何者なのか、住んでいる場所も、
名前も、何もかもを忘れていた。そんな男の前に現れた女・良子。二人は次第に惹かれ合い、
一緒に住むようになった。幸せな同棲生活を送る傍ら、男は断片的にだが記憶を取り戻して
行く。しかし、その記憶が指し示す現実は戦慄すべきものだった――名探偵御手洗潔最初の
事件。


はい。前回「占星術殺人事件」の記事でたくさんの方が引き合いに出していた本書。早速
読んでみましたよ~~。
むふふ。今回はトリックのネタバレも知らずにまっさらの状態で読んだので、素直に作品の
仕掛けられた罠に驚かされ、感心させられました。いやいや、なる程なる程。みなさまが
お薦めする理由がよ~くわかりました。本書の御手洗氏は最高ですね。記憶を失くした主人公
との初めての出会いのシーンなんて、もう、可笑しくて可笑しくて。ゆきあやさんが本書の
記事であげてらした台詞「これが砂糖です!」に大ウケ。砂糖です!って断言されても
ねぇ(笑)。そりゃ面喰らいますよ。二十代の御手洗さんの奇矯っぷりに大いに笑わせて
頂きました。でも、この作品の彼がみなさんに愛されてるのはそれだけが理由だからじゃない。
記憶を失くした友人を救う為に、黒い鉄の乗り物に乗って夜の荒川土手に現れた、しびれる
ような優しさが心に沁みるからなんですね。でも、この優しさが友人に伝わるのは物語が
終わりに近づいた頃。友人を心から救いたいという御手洗氏の心は、頑なになってしまった
友人には届かない。どんなに言葉を尽くしても、友人の言葉よりも恋人を信じようとする。
終盤の謎解きで、彼が何故友人の窮地に駆けつけることが出来たのか知って、改めて荒川
土手のシーンが悲しくなりました。あの場面に駆けつける為に、御手洗氏がどれだけ頑張った
のか。それでも、拒絶されても気を悪くすることなく、最後まで友人を見守る御手洗氏に
惚れますね・・・。

もちろん、事件のからくりにも大いに驚かされたのですが、やっぱり本書が名作たる所以は、
ドン・キホーテの如くに黒い鉄の馬に乗って夜の土手に現れた御手洗氏の姿が全てのような
気がします。それと、主人公と良子の切ない恋愛にもやられました。終盤まで、正直良子
という女性がよくわからないでいたのですが、ラストの手紙は反則ですよね・・・。多分、
東野さんが書いたら絶対こういうラストにはならないだろうなぁ・・・。って比べちゃダメか^^;







以下ネタバレ注意です。未読の方はご遠慮ください。











実は主人公の正体は、そうかな、そうかな?ってずっと思いながら読んでました。そうだと
いいな、とも。免許証で名前がわかった時は一時がっかりしたのですが、その後もしつこく
もしかしてそうなんじゃないの?と疑いながら読んでました。だから、最後で名前が明かされた
時、ああ、やっぱりそうだったんだ!と嬉しくなりました。これが二人の出会いだったんですね。
そして、二人の友情はこの後もずっとずっと続いて行く。そのことが一番嬉しかった。たった一冊
きりの友情物語なんかじゃなく、先に続く二人の探偵譚の序章に過ぎなかった。主人公はたくさん
苦くて辛い経験をしたし、大事なものも失った。それでも、たった一つ、御手洗潔という
エキセントリックで得がたい友を手に入れたことは、何よりの宝になった筈です。ラストの
余韻がなんとも切なくて良かったです。実は題名からもっとファンタジックな作品なのかな、
とか想像してたんですが、いい意味で裏切られました。まさかこんなに青春を感じる作品
だったとは!でも、最後まで読むと、本書の題名はこれ以外にはあり得ないことがわかりました。
異邦の騎士。御手洗潔、その人のことだったんですね。












本書をお薦めして下さったみなさん、どうもありがとうございました。とても魅力に溢れた作品
でした。読めて良かったです!面白かった~!
本書を読んで、ドビュッシーの「アラベスク」が無性に聴きたくなりました(ドビュッシー
もともと大好きなのですが)。そして、もちろん、チック・コリアという耳慣れないアーティスト
の「ロマンの騎士」は言うまでもありません(どんな曲なんだろう~?)。

ネットで見ていたら、本書の後日譚のような作品があるのだとか。是非是非読んでみたいです!
次は何を読もうかな~。未読作がいっぱいあるからよりどりみどり!?いっぱいありすぎる
のも困るんですけど^^;;とりあえずゆきあやさんお薦めの短編集辺りからかな。あとは
たいりょうさんによると、実家に積読の「暗闇坂の人喰いの木」は読んでおかないといけない
模様。積読棚から引っ張って来なきゃ。

みなさまのお薦め作品、随時受け付けております(他力本願)。