ミステリ読書録

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ゆうきりん/「スイートスイーツショコラ」/徳間書店刊

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ゆうきりんさんの「スイートスイーツショコラ」。

28歳の智代は洋菓子店『洋甘』で働くショコラティエール。しかし、バレンタインが近づくに
つれて、気が重くなる一方だった。それというのも、智代が勤める『洋甘』は、ショコラには
ほとんど重きをおかず、バレンタイン用のチョコレートも原材料の安い二級品しか扱わない
からだった。理想のショコラを作りたい智代と店の意向はすれ違うばかり。それまで勤めて
いた店を辞めてこの店に移ったのは、事故でリハビリ生活を余技なくされた父の介護に付き添う為、
地元で就職しなければならなかったからだ。そう簡単には辞められない――洋菓子店を巡り、
様々な人間模様を描く連作集。


ゆうきりんさん。名前はなんとなく知っていたものの、読んだのは初めてです。何故いきなり
これを読んだかというと、図書館のバレンタイン本コーナーに置いてあって、表紙があまりに
可愛らしく、かつ私が無類のチョコ好き(はっ、しまった。「もっと知りたいバトン」の
好きな食べ物に書き忘れたことを今思い出した!!)だからです。バレンタインも近いし、
丁度いいかな、と思って手に取ってみました。

表紙の雰囲気から、ほのぼのとしてあまーいスイートチョコみたいなお話なのかな、と期待した
のですが、どっこい、中身はかなりシビアな現実を描いたビターな内容でした。主人公智代の
おかれた現実はかなり厳しく、自分の理想と現在の環境との間には大きな隔たりがある。事故
をきっかけに智代に依存するようになってしまった父親を見捨てることもできない代わりに、
そう仕向ける父親を心のどこかで鬱陶しいと感じ、自己嫌悪に陥る。そうした智代の内面の葛藤は
少し読んでいてしんどかった。智代の気持もわかるし、父親の気持もわかると同時に、智代
にも父親にも嫌悪を感じる。なんだか読んでいてもやもやした気持になりました。多分こういう
悩みはすごくリアルなんだと思う。智代が、『洋甘』に対してもっといいものをと要求する
気持はよくわかります。自分の実力が存分に出せない状況ってかなり辛いと思う。せっかく
持っている技術を生かせないというのは蛇の生殺しに近い。でも、店側としては利益を考え
なきゃいけない。そこには、理想ばかりを追いかけられないシビアな現状があって、どうしたって
両者が上手く行く訳がないのです。でも、どんな職場でも、こういう状況はあり得るんだろうと思う。
理想を抱える若い情熱と会社やお店の利益との衝突。そこをどう乗り越えて行くかで、その人の
将来が決まって行くんだろうな。智代が最終的に下す決断は、彼女にとっては必然だったと思う。
読んでいる私から見ても、『洋甘』での智代の仕事ぶりは痛々しかったもの。ショコラを作っている
彼女は本当に楽しそうで、嬉しそうで、羨ましくなる程だったのに。できれば、最後に彼女が
作ったショコラムースの真意が『洋甘』の店長に伝わったら良かったのに、人間はやっぱり
変わらないんだなぁとここでもシビアな現実を思い知らされた気がしました。ここまでしても
ダメだったのだから、やっぱり智代の決意は正しかったのだと思います。

全体の構成としてはやや中途半端。智代が中心なのは間違いないのですが、合間に違う人物
視点の話が挟まれ、それがどうもあまり意味のないサイドストーリーのように感じられて
必然性があったのか少し疑問。智代だけの連作にした方が物語としてはすっきりしたような。
特に、正綱視点の話で、優花が結局どういうつもりでチョコを送って来てるのかがはっきり
しないので、かなり消化不良な気持になりました。二人が別れた理由も後味の悪い思いが
しましたし。

全体的には非常に読みやすく、ショコラやケーキを作る過程なんかも丁寧に描写されていて
良かったのですが、所々読んでいて不快に感じるところがあるのが気になりました。先に挙げた
正綱の章もそうですが、愛子の章の焼芋屋さんの正体なんかも。どこか毒があるというか。
綺麗なだけじゃない、現実を描いていると言えるのかもしれませんが。私としては、表紙の
通りのほのぼの路線の話が読みたかったなぁ。

まぁ、何にせよ、やたらにショコラが食べたくなりました。バレンタインのシーズンに
デパ地下に行くと、普段食べられないショコラティエの出店が催事に来てたりして、
ついつい自分で買いたくなっちゃうんですよねぇ。歯科に勤めてるくせに、甘いもの
には目がない私です・・・(もちろん、食べた後はきっちり歯磨きしますよ!)。



蛇足。私がつられた表紙の画像をまたまた添付。バレンタインシーズンに、こんなチョコレート
に関する作品を読むのはいかがでしょうか。