ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

綾辻行人/「深泥丘奇談」/メディアファクトリー刊

綾辻行人さんの「深泥丘奇談」。

散歩に出かけた途中に強い眩暈に襲われた作家の私は、ふと目に付いた坂の先に存在していた
深泥丘病院に検査入院することに。病室で寝ていた私は、夜中に「ちちち・・・」という
奇妙な物音を聞く。この病院は、この町は、何かがおかしい――京都の町を舞台に繰り広げ
られる幻想怪奇譚。


綾辻さん久々の新刊です。深泥丘病院という名前からして怪しげな病院で起きる怪奇を
描いた連作集。ホラーといっても、それ程怖い訳ではありませんが、主人公が体験する
怪奇はどれもぞくりとするものばかり。だいたい、病院が舞台ってだけですでに怖い^^;
しかも、勤めている医師や看護師がまた正体不明で妙な怖さがある。ミステリではないので、
いくつもの謎が提示されたまま解明されずに物語が閉じてしまうものが多く、かなり読者は
煙に巻かれた印象を受けるかも。ただ、その『わからなさ』がぞくぞくする怖さを増長
させていて、ホラーとしての魅力を引き立てていて良かった。主人公が度々襲われる眩暈
がこちらにも伝染して奇妙な酩酊感に捉われるような気持になりました。綾辻さんの文章は
やっぱり素敵だ。

どの短編も印象深いけれど、特に怖かったのは「丘の向こう」でやって来たそれ
正体が知れないから余計に怖い。生きた昆虫列車?出会いたくない・・・。「長引く雨」
に出て来る黒鷺川の橋からぶら下がる無数のあれも怖い。見たくない・・・。
でも一番恐怖だったのは「サムザムシ」の虫歯治療かも・・・。絶対絶対絶対やりたくない!!
ほんとに虫出て来たよ~~~^^;気持悪いよ~^^;;ぞぞぞ。「眼球奇譚」はあまりにも
気持悪そうで読んでいないのだけど、もしかしてこんなのがわんさと出て来るんだろうか・・・?
(確か‘ユイ’という女性が出て来る話だと思うのですが、咲谷看護師と関係ありそう?)

「悪霊憑き」だけアンソロジー「川に死体のある風景」に寄稿する為に書かれた作品で、
ミステリという体裁を取っている為ちょっと全体から浮いた印象を受けました。それまでの
紗がかかったような眩暈感が薄れて現実味が増しているというか。ただ、「川に~」で
読んだ時は正直ラストの謎解き部分の印象が良くなかった為あまり好きな作品ではなかった
のですが、こうして連作短編の一作として読んでみるとまた違う印象を受けるものだなー
と思いました。ただ、やっぱり謎解き部分でいきなり現実に引き戻される展開は好き
じゃないのですが。ミステリとしては良く出来ているとは思うけど、やっぱり妖しい
雰囲気を最後まで引っ張って欲しかった。この連作短編に入れるにしても、そこだけ
どうしても浮いている感じがしてしまい、しっくりしなかったです。

とはいえ、全体的には非常に好みの一冊でした。読めば読む程謎に包まれて行く深泥丘病院
の世界に引き込まれました。絶対にこんな病院にかかりたくはないですけどね・・・。

そして、何よりも特筆すべきは装丁です!!「情熱大陸」でこの本の制作行程を見ていたので、
すごいことは予想していたけれど、もう、その百倍は素晴らしい。これは芸術品ですよ。
今年の装丁大賞間違いなし・・・!と断言したいくらい、素敵。ページを捲る度に現れる
イラストも素晴らしい。これで採算取れるのかしら・・・と心配になる位です^^;
装丁を手がけた祖父江さんが、本当に楽しそうにこの仕事をやってらっしゃっていたのが
印象的でした。裏表紙に書かれてる『幽』のデザインもかっこいい~~。
買って手元に置いておくべき本かな、やっぱり・・・(頷く顔が数人浮かびますが^^;)。


やっぱり綾辻さんは良いです!堪能しました^^
でもでも、ホラーも良いけど、やっぱり今度は館シリーズを~~~。