ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

鳥飼否宇/「中空」/角川書店刊

鳥飼否宇さんの「中空」。

女性植物写真家の猫田夏海は、バーで知り合った行商人から大隈半島の先端近くの集落で
いま現在、数十年に一度しか咲かないと言われる竹の花が咲いているという情報を聞き、
撮影の為、大学時代のサークルの先輩、鳶山と竹の花の咲く村・竹茂村にやって来た。
村の村民は皆、老荘思想に従ってひっそりと暮らしていた。村では二十年前に恐るべき
連続殺人事件が起き、八世帯あった集落が七世帯になってしまったという。そして、その
忌まわしい過去の再来であるかの如く、連続殺人事件が二人の前に立ちはだかる――
第21回横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞作。


冴さん、すみません。正解はこれ、「中空」でした^^;nikoさんのところで「いかにも
横溝風」と紹介されていて、それは是非とも読んでみなければ!!と早速借りてみました。
しかし、図書館で検索したら在庫しているものの、「閉架」扱い・・・それ程古い作品でも
ないのに何故に・・・^^;
それにしても、鳥飼さんが横溝風!?と驚いたのですが、なんと、これ、横溝賞作品だった
のですね!!鳥飼さんが横溝賞出身だとは全く知りませんでした。いや、どこかで聞いていた
かもしれないけど、完全に失念していたと言った方が正しいかも^^;

さてさて、本書。とっても面白かったです。幻想的な竹の群生する村で起きる不可解な殺人事件。
何故か老荘思想に則って生活する村人。七つの世帯の中で特別視されている宋家の謎。
二十年前に起きた「八つ墓村」ばりの凄惨な連続殺人事件。これぞ本格ミステリ!という
私好みの舞台設定がずらり。その割に、全体に流れる雰囲気がおどろおどろしくないのは
やっぱり語り手の猫田の妙にユーモラスなキャラと、先輩の鳶山のどこか世間離れした
とぼけた味のあるキャラによるところが大きいでしょうね。とはいえ、今まで読んだ鳥飼作品
とは大きく違って正統派な本格ミステリ。謎解きに至るまでに細かく伏線は張られているし、
二人の人物が謎解きをした後真打が登場するという、真相が二転三転する構成もいい。
もちろん、猫田さんの謎解きは絶対違うだろうな~とは思ってましたけどね(苦笑)。

舞台設定を竹の村にしたところが秀逸です。幻想的な竹の描写も雰囲気があって良かったし、
竹自体の薀蓄も面白かった。特に竹の「中空」の捉え方には感銘を受けました。確かに竹って
中空だ!と目からウロコ。それに、言われてみれば、竹ってすごく不思議な植物なんですね。
数十年に一度しか花が咲かないというのも奇妙だし、咲いた後にああなるというのも、普通の植物
だったら考えられない。これってホントなのかな?とも思ったのですが、鳥飼さんは生物学者
としての一面もお持ちらしいので、本当なのでしょうね。竹の花が一面に咲いて煙ったように
見える光景というのは、是非ともいつか見てみたいですね。でも、なんだかそれを見たら
不吉なことが起こるような不穏な気持にもなりそうですが^^;

かぐや姫の薀蓄部分は鯨さんや高田さんで免疫がつき過ぎたのか、さほど感心はしなかった
のですが、こういう民俗学的考察はやっぱり読んでいて面白い。
そういえばQEDにも竹取物語を扱ったのがあったっけ(しかし、内容全く覚えてナイ^^;)。

終盤の謎解きはやや強引さを感じる部分もあったり、情報を一部隠していた鳶山に猫山さん
同様「ズルイ」と思ったりもしたのですが、なかなか良く出来ているのではないかと思いました。
冒頭の描写にも伏線が隠されていたことに気付かされて愕然。「言われてみれば・・・」の
連続でした^^;充の父親はさすがにわかりましたけど(って誰でもわかるか^^;)、
真犯人の正体は猫山さん同様完全に騙されました。ただ、この真犯人の描写が圧倒的に
少ないのは少し読者に不親切かな、とも思いました。まぁ、ちゃんと最低限の情報は提示
されているので単に負け惜しみとも言うのですが・・・。

鳥飼さんがこんなに正統派な本格ミステリでデビューされていたとは驚きでした。この後で
「痙攣的」やら「昆虫探偵」やら問題作をたくさん生み出す作家に成長(!?)なさった
のかと思うと感慨深いものが・・・(何故?)。
これには続編もあるそうなので、もう少し鳥飼さんの本格を堪能出来るようで嬉しい。
(ネット検索していたら、著者が本書のことを「バンブー小説」、続編のことを「マーメイド
小説(人魚が出てくるらしい)」と紹介している記事を見つけて笑ってしまった(笑))

ところで、「笑」が竹冠の理由は結局なんなんでしょう?これは自分で調べろってことなの
かなぁ。


大変面白く読んだ一冊でした。nikoさん、ご紹介ありがとうございました!