ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

都筑道夫/「きまぐれ砂絵 なめくじ長屋捕物さわぎ」/光文社時代小説文庫刊

都筑道夫さんの「きまぐれ砂絵 なめくじ長屋捕物さわぎ」。

江戸は神田の橋本町、ものもらいや大道芸人ばかりが住むなめくじ長屋に住む砂絵かきの
センセーは、長屋の住人たちを手足に、鋭い推理で難事件を見事に解決し、礼金をせしめる
ことで生計を建てている。ある春の日、長屋の面々は「長屋の花見」よろしく、飛鳥山
花見へと繰り出した。しかし、そこで殺人事件に遭遇!貧乏長屋の面々が下手人に!?
センセーが推理に乗り出した!(「長屋の花見」)全篇落語仕立ての傑作短編集。


「オチケン!」の巻末エッセイで紹介されていた本書。すみません、結局気になって4冊
すっとばして読んでしまいました(このシリーズまだ1巻しか読んでいないのです^^;)。
全作が落語の題材からヒントを得て書かれたもの。語り口が相変わらず粋で楽しい。そして、
なめくじ長屋の面々も相変わらずで嬉しかった。ただ、私は元ネタとなる落語について
全く明るくないので、正直落語との関わりはあんまりよくわからなかった。そんな無知
な読者の為に、巻末のあとがきで作者ご自身で各落語について解説してくださっている
のがせめてもの救い(でも、読み終わった後で読んだから「そうだったんだ~」てな
感想しか持てなかったのですが^^;)。一話目の「長屋の花見」だけは題名は何度か
聞いたことがあったのですが。
岡っ引きの下駄常のセンセーへの頼りっぷりにちょっとびっくり。事件=なめくじ長屋へ
直行という感じになってる。私が知らない4冊の間にここまで友好関係が築かれていたのか。
弱冠、いいのかそれで!?と思わないこともないけど(苦笑)、この信頼関係にくすりと
してしまった。下駄常のキャラ好きだな~。こんなにセンセーを慕ってるのに、当の本人からは
知らない間に出し抜かれてたり、騙されてたりしてちょっと哀れ(でも基本的にはちゃんと
協力して事件解決してあげてるんですけどね)。頑張れ、下駄常。

面白かったのは「擬宝珠」かな。五重塔の屋根の上で、宝輪の擬宝珠をなめるのが趣味の男が
・・・って、これだけでも面白いのに、その男が鍋を頭にのせて死んだというのだから、
一体どうなってるの?ってなりますよね。これがちゃーんと論理的に解決します。でも、
巻末の解説を見るとこの「擬宝珠」だけは作者ご自身も元の落語を聴いたことがなく、速記本で
読んだだけの状態で書いたのだそう。五重塔の擬宝珠がなめたいという男が出て来るのは一緒
らしい。書かれた当時には難しくてもう高座にかける人がいなくなったらしいけれど、現在でも
そうなんでしょうか。
幻の噺と聞くと、是非とも聴いてみたくなりますね。
書かれた時代を考えると、この作品が元祖落語ミステリと言ってもいい位なのかも。
落語とミステリが相性が良いことは、この頃から証明されていたのですね。

なめくじ長屋ののんきな面々とは裏腹に、事件はかなり陰惨で、しっかり本格。この辺りの
ギャップが魅力。もちろん、江戸情緒もたっぷり味わえます。そして何より長屋のメンバーを
動かして颯爽と謎を解いてしまうセンセーがカッコイイ!
次はどれを読もうかなぁ(順不動宣言!?・・・いやいや、やっぱり2作目ですかね^^;)。
時代もの好きでミステリ好きならば是非試して欲しいシリーズですね。
(時代ものが苦手な私ですら楽しめるのですから、上記にあてはまる方なら間違いなし^^v)