ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

貴志祐介/「狐火の家」/角川書店刊

貴志祐介さんの「狐火の家」。

長野県の静かな農村、荒神村の素封家・西野家である朝その家の中学生の長女が死体で発見
された。第一発見者は父親の西野真之。一家で一昨日から松本市内の親戚宅に泊まりに行って
いたのだが、長女の愛美だけが部活の朝練を理由に朝一で帰って来ているはずだった。玄関は
内側から鍵がかかっていて、窓もたった一つを除いて全てが施錠されていた。一つだけ空いて
いた窓のすぐ下には、雨が降った後の粘土質の土が広がっていて、足跡をつけずに脱出するのは
不可能だった。結局第一発見者の父親が容疑者となり、弁護士の青砥純子が弁護にあたることに。
純子は、この密室の謎を解くべく、防犯ショップの店長、榎本径に協力を求めるが――(「狐火
の家」)。『硝子のハンマー』の純子&榎本コンビが4つの密室の謎に挑戦するシリーズ第二弾。


貴志さんの最新刊。貴志作品を読むのはかなり久しぶり。多分これの前作「硝子のハンマー」
を読んで以来じゃないかな(その後に作品が出ているのか知らないけど^^;)。「硝子~」の
トンデモトリックと防犯探偵の設定が結構お気に入りだったので、あれの続編が出ると聞いては
読まずにいられません。「新世界より」はいまひとつ食指が動かなかったのですが、こちらは
図書館入荷前に勢い勇んで予約。一番手で回って来ました^^
防犯探偵再び!です。防犯のプロが密室の謎を解く。これは実に理にかなった設定ですよね。
どうやって施錠を解くのか一番熟知しているのが防犯のプロでしょうから(あとは泥棒!?笑)。
実は弁護士の純子さんのキャラの方はほとんど記憶になくて、本書を読んで「こんなにおかしな
キャラだったっけ?」と首をかしげてしまった。一作ごとに天然度が増して、だんだんとお笑い
キャラに近くなっているような・・・。特にある昆虫に対する反応についつい笑ってしまった。
いや、実によくわかりますけどね。私も大嫌いなんで・・・。
4作とも楽しく読めたのですが、やはり表題作が一番良かったな。といより、好きな順=
収録作順かもしれない・・・。


以下各短評。


「狐火の家」
これは設定、雰囲気、トリック、ラストの余韻すべて好きですね。金のインゴット(金の延べ棒
のことをこういうらしい・・・知らなかった←無知^^;)の意外な使われ方に瞠目。
それにしても軒下に9千万円分の金の延べ棒が眠っているなんて、田舎の旧家ってスゴイ。
そして、それがラストにあんなことに・・・いくらせっぱつまってたからって・・・。
犯人はわかりやすいですが、犯行方法にうならされた一作。そして、余韻の残るラストの
怖さが貴志さんらしくて好きだな。


「黒い牙」
これはもう、読んでいて何度気を失いかけたか・・・。き、きぼちわるい・・・。だから
昆虫はダメなんだってば!!純子さんの気持が実に良くわかりました。そして、こんなマニアの
男とは絶対絶対結婚したくないですっ。それにしても、これのトリック、どう考えてもバカミス
じゃないかな・・・実現可能なのか、これ^^;○○(虫の名前)の知識なんてないから
私にはよくわからないけど、蟹とか海老みたいになってるのか?とにかく、犯人がトリック
を実行しているシーンを頭に思い描いて倒れそうでした・・・。でもどちらが犯人か最後まで
わからない展開は面白かったです。最終的に謎解きを請け負うのが純子さんだったのが一番意外な
展開だったかも^^;そして、ラストの1ページの○○の姿に衝撃。


「盤端の迷宮」
榎本が美人女流棋士にデレデレしているのが意外でした。彼の女性の好みって、=純子さん
そのものじゃないかー。その割に、この二人の間に恋愛感情が生まれそうにないのは何故だ。
トリックはよく出来ているのですが、一点、鍵の問題で腑に落ちない点が残りました。
ラストで明かされる被害者の本性に嫌悪を覚えましたね。携帯ストラップの意味がこの上も
なく黒い。


「犬のみぞ知る Dog knows」
これだけ書きおろしということでページ数が少ないです。言ってみればボーナストラック
みたいなもので、トリックなんかは大したことない。というより作風もギャグっぽくて、
劇団員のネーミングセンスにもついつい笑ってしまいました。登場人物たちの会話が軽妙
で、楽しく読める一作。特に、純子のバイリンガルの部分には噴出しちゃいました。冷静に
行動を読んでいる榎本にもウケたけど(笑)。この二人って、実はベストコンビかも。
ラストの榎本の一言、意外な盲点をつかれた~という感じでした。確かに。



一作ごとに本格意識がちゃんとあって、非常に私好みの一冊でした。このシリーズ、もっと
書いて欲しいな~。二人の会話が微妙にズレてて面白い。
そして、これまた装丁が素晴らしい!!タイトル字がめちゃくちゃカッコイイ。
今年は装丁のいい作品が多いなぁ。前作「硝子のハンマー」とは比べものにならない位
好み(あれはあんまり好きでなかったんで^^;)。表題作とベストマッチですね。
これも本棚に並べておきたい本だな~。お薦めの一冊です!